これって何が面白いの? 話題になってるけど、見てみたらいまいちピンと来ない映画って誰にでもあると思う。私(中澤)にとっては『風立ちぬ』がそれだった。

「宮崎駿監督の最新作!」と期待して映画館に行ったものの、見終わった後「なんか盛り上がりきらないうちに終わった」という不完全燃焼感が残ったのである。CM時が一番面白かった。あれってどこが良いの?

・ジブリファン「ある意味最高傑作」

ゼロ戦設計者・堀越二郎をモデルにその半生を創作で描いた本作。ファンタジー要素はなく、これまでの宮崎作品とは違う飾り気の無さに冒頭のような疑問を持ってしまったのだが……

その疑問に「むしろ、ある意味最高傑作でしょ」と言ってきたのは、ジブリファン歴25年で「『風の谷のナウシカ』あるある」や「『となりのトトロ』あるある」なども執筆している当編集部の記者あひるねこだ。

あひるねこ「宮崎駿の凄さを思い知る作品です。齢70にしてよくぞこれを創ったなという」

──んん? そこまでか? 『千と千尋の神隠し』とかの方が良い気がするけどなあ。

あひるねこ「ラインはそこです。個人的には、『千と千尋の神隠し』以降は、バタバタのうちに終わる強引なラストが目立つように思うんですよね。店じまいして逃げるみたいな。もちろん、素晴らしいシーンがたくさんあるので感動はするんですが……。点なんです。

でも、『風立ちぬ』はそうじゃない。清流のように物語が美しく流れて、ちゃんとエンディングを迎える。全盛期の『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のように」

──でも、『天空の城ラピュタ』とか『風の谷のナウシカ』って、スゴイ絶望的だったり盛り上がったりするやん? 『風立ちぬ』ってめちゃくちゃ淡々としてない? 抑揚に欠けるというか……

あひるねこ「『風立ちぬ』は、大人向けの作品と言われています。つまり、ある程度こちら側が考察をすることを前提として作られたものなので、そういった分かりやすさはあえて排除しているのかもしれません」

──考察と言えば、ちょっとよく分からないシーンはあったな。

あひるねこ「どこですか?」

──軽井沢に二郎が行った時にドイツ人のカストルプ博士と会うやん? カストルプ博士は重要キャラのオーラを発してるけど二郎にちょっと助言するだけ。しかも、正体不明のまま消える。あの役回りって必要なのかな? 見てて「誰やねん!」ってなる。

あひるねこ「そこ重要ですね」

──菜穂子(ヒロイン)に告るの助けるだけじゃないの?

あひるねこ「そもそも二郎は、美しい飛行機を作ることにしか興味のない人間として描かれています。ちょっと変人だけど天才という感じ。それが良い悪いではなく、ただ欠落してるんですね

そんな二郎が加速するのがカストルプとの出会い。あのシーン以降、二郎はより飛行機作りにのめり込み、菜穂子が結核にかかってもほとんど放ったらかし状態です

──そう言えば、結核の菜穂子の前でタバコ吸うシーンとかあったね。でも、二郎が自己中で菜穂子に冷たく見えるのは、そういう時代だからって感じもするけどね。「ん?」ってシーンも僕は今の価値観とのギャップと捉えちゃった。

あひるねこ「まあ、そういう考えもあるかもしれませんが……ともかく、色んな意味であの軽井沢は転換点であることは間違いありません。

そんなカストルプは軽井沢で二郎と一緒にタバコを吸っている時、タバコの煙を残して消えるシーンがあり、これは悪魔・メフィストフェレスを暗示した描写という噂もあります。この作品はそういう比喩の宝庫なんですよね。教養ありき的なところが挑戦的だと思いますよ」

──でも、そんなに重要なシーンならもうちょい分かりやすく描いてもいいんじゃないかな。

あひるねこ「そこが大人向け

──とのこと。あひるねこいわく「創作なので、主人公には宮崎駿も投影されている。つまり、この話は宮崎駿自身のもの作りへの情熱でもある」のだという。

子供な私は、やっぱり『天空の城ラピュタ』などの胸が熱くなる盛り上がりが好きだ。しかし、考察を踏まえてもう1度見たい気もする。私同様、これを読んで見てみたくなった方は、今夜の金曜ロードショーを見ながら記事の内容をチェックしてみてくれ。

イラスト・執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.