世の中ってマジでクソだ……私(中澤)が『アラジン』を見てそんな気持ちになった話をしたい。

ディズニー映画の代表作の1つ『アラジン』。言わずと知れた大ヒットアニメだが、36歳である私(中澤)は本作を見たことがなかった。理由は簡単で「子供向け」だと思っていたから

だが、先日、友人のディズニーマニア・田代が本作を激推ししてきた。田代いわく「大人でも感動する」とのこと。そこで初めて本作を見てみたところ……別の意味で泣いた

・ジャファーが可哀そうすぎる

私が涙した理由はただ1つ。それは「ジャファーが可哀そうすぎる」ということ。順を追って説明しよう。

「愛は冒険を生む。冒険が愛を育てる」というキャッチコピーの本作。その言葉の通り、主人公・アラジンは、冒険の末に魔法の絨毯と魔法のランプを手に入れ、砂漠の王国アグラバーの王女と恋に落ちる。

そんな物語において、敵として登場するのがジャファーだ。アグラバーの国務大臣であるジャファーは、魔法使いでもあり、王国を乗っ取るために画策する分かりやすい悪役

物語が動き出すのは、願い事を3つ叶える魔法のランプが登場するところから。選ばれし者しか中に入れない洞窟にある魔法のランプが欲しいジャファー。アラジン(選ばれし者)を探し出し、魔法のランプを取ってこさせる。

その魔法のランプから出てきた魔人・ジーニーの力などで、アラジンはジャファーと渡り合い、最終的にはやっつけて王女とも結ばれる。めでたしめでたし……といきたいところだが、ちょっと待って欲しい。これ、そんな夢のあるストーリーか?

View this post on Instagram

アラジンとジャファーを描きました

A post shared by 中澤星児 (@seiji_nakazawa) on

・透けて見えるジャファーの努力の日々

私がそう思ってしまうのは物語の背景にある。脇役含む登場人物の中で、人間なのに魔法を使えるのはジャファーただ1人。そんなレアな能力を、修行なしに身につけたということはないだろう。目標のために血のにじむような努力をしたに違いない。

さらに、願い事を3つ叶える魔法のランプなんて存在さえ知られていないものを、ジャファーは実際に隠されている場所まで特定しているのである。噂段階から長い年月をかけて情報を精査する姿が目に浮かぶようだ。アラジンを見つけだし連れてきたのもジャファーだし。

国家を乗っ取るために国務大臣にもなっている。目標のために計画を立て地味な努力を惜しまない男。それがジャファーなのである。

と言うと、「国家を乗っ取る思想が悪」という意見もあるかもしれない。だが、アグラバーは王国であり、最後には法律を王様の独断で変えるシーンがある。ということは、独裁の可能性が非常に高い。そして王様は明らかにアホである。アホの独裁者を倒すことは民衆にとって悪なのか? 私には分からない。

・頑張ってるのに嫌われまくるジャファー

話がそれたので戻すと、そんな苦労人・ジャファーは、王女や王様、アラジン、ジーニーにまで蛇蝎のごとく嫌われている

特にジーニーはノリだけで嫌っているようにさえ見える。オイ、ジーニー、せめてお前は嫌ってやるなよ。ひょっとしたらジャファーの性格が歪んでいるのはそういった “報われなさ” のせいなのかもしれない

・「持ってる男」アラジンは違う

一方、アラジンは生まれ持っての選ばれし者。物語当初は盗みを働いているのに、イケメンだからか憎めない性格だからか、街の人にはある程度好かれているように見える(盗まれた店主はともかく)。

しかも、王女とは恋に落ち、王様にも好かれて、ジーニーともすぐに親友のようになり、全てがウマくいってハッピーエンドだ。

・ジャファーの欲しいものを全て手に入れるアラジン

人に理解されない努力を積み上げて積み上げて欲しいものが手に入らないジャファーと、ほぼ何もせずにジャファーの欲しいものを全て手に入れるアラジン。特に欲しがってもないのに。これって、そんなに良い話?

私は逆に悲しい話だと思う。「生まれ持ったものには敵わない」と言われているようにすら感じてしまい泣いた。悔しい。世の中ってマジでクソだ……。そんな感想を本作をオススメしてきたディズニーマニアの田代に伝えてみたところ……

田代「ジャファーの視点を考えたことがありませんでした……」

──でしょ? やっぱり僕はディズニーはちょっとダメかも……

田代「そんな見方があったなんて……ウォルトはそういう見方も望んでいるのかもしれないですね!!」

──え?

田代「ディズニーにはそれぞれのキャラクターに物語があるんです! 偉大すぎる兄のせいで劣等感に苛まれる『ライオンキング』の悪役スカー、自分だけ仲間はずれにされ呪いの魔法を使ってしまう『眠れる森の美女』の悪役マレフィセント……」

──田代さん?

田代「ヴィランズ(悪役の意味)にもヴィランズの物語がある。なんでこんな大事なことを忘れていたんだ……僕はディズニーファン失格です!」

──ちょっとちょっと

田代「そして星児さん!」

──はい?

田代「あなたこそ、ディズニー作品の本当の楽しみ方を理解した真のディズニーファンです! 僕も星児さんに負けないよう、家でディズニー作品を見返してきます!!」

──ダッシュで帰っていく田代。いつの間にか私もディズニーファンみたいになってるし。

それはさて置き、流し見のつもりがこれだけジャファーに感情移入してしまうのだから、『アラジン』はやはり名作なのかもしれない。ヴィランズにもヴィランズの物語がある……か。私にも私のア・ホール・ニューワールドがあれば良いなあ。

執筆・イラスト:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

▼ちなみに、ディズニーマニアが本気を出している記事がこちら →「【検証】「絶対にディズニーランドが無理なおっさん」がディズニーマニアに1日案内されたらこうなった