つい先日まで、女優の真木よう子さんがインターネット上をにぎわせていた。流れだけを簡単に説明すると、2017年6月末に開設した自身のTwitter上でコミケへの参加を表明したものの、一部のファンから猛反発を喰らい謝罪。Twitterアカウント削除まで追い込まれた……といった感じである。

この一連の流れを見て25年来のプロレスファンである私(P.K.サンジュン)は、1990年代にマット界をザワつかせた幻のプロレス団体「SWS(エス・ダブリュー・エス)」を思い返さずにはいられなかった。どうにも真木よう子さんとSWSが重なって仕方ないのだ。

・反発したファン心理

真木よう子さんがファンから猛反発を喰らった明確な理由は定かではない。これまでオタクの祭典「コミケ(コミックマーケット)」には、小林幸子さんや叶姉妹が参加しているが、今回のような著名人に対する猛反発はおそらく史上初めての事態であろう。

細かなことはわからないが、おそらく反発した人の中には「真木よう子さんのインターネットリテラシーの低さ」と「オタクじゃない人への違和感」があったに違いない。噛み砕いていえば、


ネットのオタクも知らない素人が、有名人だからって聖域に入って来るんじゃねーよ


……といった感じなのだろう。私自身もかつてはプロレスオタクだったので気持ちはわからなくもないが、率直に言って私は「ネット及びオタクの閉鎖的、排他的な空気」を感じずにはいられなかった。

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・SWSの話

さて話をSWSに移そう。当時のプロレス界は現在のように団体が乱立している時代ではなく、大きく2団体「新日本プロレス」と「全日本プロレス」が存在するだけであった(UWFや全日本女子プロレスは除く)。

その中に割って入ろうとしたのが、大のプロレスファンとして知られるメガネスーパー社長、田中八郎氏だ。当時のメガネスーパーは超優良企業であり、簡単に言えばメチャメチャ儲かっていた。豊富な資金力を持つ一流企業がプロレス界に乗り込んで来たのである。

当時はネットがなく、プロレスファンの多くは週刊誌でしか情報を得られない環境にあった。そんな中、大人気プロレス雑誌「週刊プロレス」が盛大なSWSバッシングを展開したのである。当時の編集長はカリスマとして知られたターザン山本。多くのファンは週プロを信じ、ターザン山本を信じ、そしてSWSを悪だと信じ込んだ。

SWSが既存の団体から選手を引き抜いたことも、プロレスファンには暴挙と映った。冷静に考えればプロである以上、ギャランティの高いリングを選ぶのは当然のことなのだが、当時のプロレスファンは「金が全てか」「SWSに行った選手は裏切り者」と声高に叫び続けた。

後年になり明かされたことだが、実はSWSバッシングの最前線にいたターザン山本は、当時の全日本プロレス社長・ジャイアント馬場から少なくない金額を受け取っていたらしい。つまりターザン山本は、己の利益ありきでSWSを叩き続けていたのだ。

当時のプロレスファンはそんなことを知る由もなく、知っていてもSWSはおそらく叩かれ続けただろう。それだけプロレスは閉鎖的であり、排他的な世界だったのだ。後に “プロレス村” と揶揄されたような空気感が、当時のプロレス界には確かに存在した。

結局、SWSは約3年で崩壊している。大のプロレスファンで、自身のためはもちろんのこと、プロレス界のためにも良かれと思ってSWSを設立した田中社長は「もう2度とプロレスにはかかわらない」と宣言し、プロレスから手を引いた。

さらに言えば、SWS余波はそれだけにとどまらない。SWSの崩壊後、90年代中盤までのプロレス界は大いに盛り上りを見せていたが、総合格闘技の波が押し寄せてきた90年代後半、プロレス界は急速に下降線を辿っていた。そんな中、資金力のある企業が支援に乗り出そうとしてもSWSの一件で、


プロレスファン = 閉鎖的、排他的


というイメージが根付いてしまい、結局プロレス界は10年近い暗黒期に突入する。全ては閉鎖的なプロレス界が、排他的なプロレスファンが招いた結果であった。その後、2012年に資金力が豊富なブシロードが新日本プロレスを子会社化し、プロレスブームが再燃したことはご存じの通りである。

もしあのときプロレスファンがSWSを受け入れていたら、プロレス界に暗黒期は到来したのだろうか? したとしても、プロレスに好意的で資金力豊富な企業が現れていたのではあるまいか? 暗黒期にプロレスを引退し、細々と暮らす選手は実に多い。そんな選手のことを思うと胸が痛むばかりだ。

真木よう子さんの件とSWSが全てにおいて合致するワケではないが、当時のプロレス界にあったような「閉鎖的かつ排他的な空気」が、ネットやオタクの世界にはあるのではないだろうか? 田中社長は大のプロレスファンだった。真木よう子さんもTwitter上で積極的にファンと交流していたと聞き、なおさら残念な気持ちにならざるを得ない。

執筆:P.K.サンジュン
イラスト:稲葉翔子マミヤ狂四郎

▼真木よう子さんは謝罪してTwitterを閉鎖するほど悪いことをしたのだろうか?