以前、日本から最も近い白人文化圏「サハリン」のメタル事情を紹介した。元々日本領「樺太」で、北海道とは目と鼻の先にあるにもかかわらず、あまり馴染みがないため辺境感が強い。ここにも多くのデスメタルやブラックメタルバンドが潜んでいる。残念ながら人気は乏しく、クオリティが高いバンドはいない。

一方、極東ロシアではなく、北極圏に属する最北端のムルマンスクではなかなかクオリティの高いメタルバンドが多くいるようだ。今回はそんなムルマンスクのメタル事情を紹介しよう。

地図で見てみれば分かるが、ムルマンスクは北緯68度。人間が住めるのかと思うほど北に位置している。北極圏に属する都市としては、ノルウェーのトロムソ(6万人)や、同じロシアのクラスノヤルスク地方にあるノリリスク(10万人)などあるが、ムルマンスクはこれらの都市を上回る人口32万人を誇り、北極圏最大。

おのずとして北極圏最大のメタルシーンを擁することにもなる。以下はその都市において、割とメジャーなバンドである。

・Disarticulating Extinguishment

ムルマンスク出身者としては世界的には最も知られたスラミング・ブルータルデスメタル。複数のメンバーがムルマンスク出身だが、他にモスクワとキエフ出身のメンバーがおり、実際のところ、どこを拠点にしているのかは不明。

もしかしたらメンバーが一堂に会すことはなく、オンラインの活動のみなのかもしれない。その根拠として、バンドのオフィシャル写真が明らかにメンバーそれぞれの写真のコラージュによって作られたことが挙げられる。

同じ頃の2010年前後にベラルーシのミンスクから「Extermination Dismemberment」という似たバンドが活発に活動していて、音も非常に似ており、2つのバンドはセットで語られていた。

・Deva Obida

1998年に結成された「ネイチャー・メロディック・メタル」を自称するバンド。確かに笛など伝統楽器によるメロディが導入されながらも、モダンメロデス風でもあり、フィンランドの「Amorphis」や「Sentenced」を彷彿とさせる。ロシア語のクリーントーンボーカルも美しく、展開もよく練られている。

同国の英雄ペイガンフォーク「Arkona」が、ムルマンスクに訪れた時は前座で出演しており、ビデオクリップのレベルも高く、ムルマンスク出身としてはイチオシ。

・Suspect Under Pressure

2013年に結成されたデスメタル、ポストハードコアバンド。「Despised Icon」や「Suicide Silence」等のデスコアから「Meshuggah」「Architects」等のDjent、そして「Korn」や「Slipknot」等の売れ筋ニューメタル等、影響を受けたバンドの幅が広い。

実際にレコーディング状況も良く、次から次へと多様な音を繰り出す。若干ボーカルがエモっぽいので、人によっては抵抗を覚えるかもしれない。

・Glamorous Bones

自らのことを「ラブ・メタル」と称する、2015年に結成された2人組バンド。明らかに「Type o Negative」や「Moonspell」の影響を露骨に受けており、ほとんどクローンと言ってもいいレベル。曲だけでなく、白黒のビデオクリップや、メイクなど雰囲気もソックリである。

どんよりとしたシンセサイザーがそれなりのムードを醸し出しており、「Type o Negative」クローンとしてはなかなかのレベルに達しているのも事実。

・Delorian Domain

2011年に結成されたエレクトロ・メロディック・デスメタル。日本では「嬢メタル」と言っても良いスタイルで、ドラマーとボーカリストが女性。ルックスも非常に良くお勧め。この手のダンスミュージックとメロデスが合わさったようなバンドはロシアに多く、「Illidiance」や「XE-NONE」にも似ている。「Amaranthe」や「Evanescence」等が好きなファンにお勧め。爆速ブラストビートが導入されているのも驚きだ。

・Town Tundra

2009年に結成されたメロデスだが、アメリカ流メタルコアと言ってもいいだろう。「Heaven Shall Burn」や「Shadows of Fall」に近く、クリーンボーカルの歌唱力も抜群。英語の発音に違和感はなく、マサチューセッツ出身と言われればそう信じてしまいそうだ。

メロディーセンスもやり過ぎなぐらいベタで、展開も分かりきったほどのグルーブやスラッシュパートを導入しており、いかにもといった感じは否めないが総じてレベルは高い。たまに日本で「Xaメタル」と呼ばれるサウンドに達するほど、あまりにも馬鹿馬鹿しいメロディが繰り出され、いつ日本でブレークしてもおかしくない。

・All the Cold

2007年に結成されたアトモスフェリック・ブラックメタル。現在はインストゥルメンタル・プログレッシヴロックに転向したようだが、当初は分かりやすいデプレッシブ・ブラックメタルをやっていた。2009年には『デスメタルアフリカ』で紹介された南アフリカ出身の「Lifeless Sorrow」とのスプリットをリリースしている。“南北距離最大” のスプリットアルバムと言えよう。耽美的でセンスの良いメロディに溢れている。

・The Massacre Serenity

バンド名からも分かる通り、「Beneath the Massacre」の影響を強く受けており、ピロピロしたテクニカルギターが炸裂している。残念ながら1作だけで解散しており、現在このバンドを特定出来るサイトや情報はほとんど見当たらない。

・Aruna Azura

2009年に結成されたテクニカル・プログレッシブ・デスメタル。ブルータリティには欠けるが、テクニックや楽曲のレベルは高く、「Fallujah」を彷彿とさせる洗練されたジャケットも秀逸だ。日本のAmazonやディスクユニオン、メタル専門ショップでも販売されており、比較的日本でも知られているムルマンスク出身のメタルバンドの1つ。

・DemUnillusions

2012年に結成されたムルマンスクの隣町セヴェロモルスク出身の男女ツインボーカルによるシンフォニックメタル。「Nightwish」や「Scar Symmetry」、「Amaranthe」、そして「Avantasia」や「Kamlot」などからも影響を受けていると公言し、かなりメタル色が強い。なかなか聞かせるメロディでプロダクションも抜群。

半分以上ロシア語で歌っており、聴いていく内に「Ария」など往年のロシアンメタルを聴いてる気分になってくる。メンバーが忍者や海賊のようなへんてこりんなコスチュームに身を纏っているのが笑える。

・僻地からクオリティの高いバンド

さて、ざっとムルマンスク出身のクオリティの高いメタル系バンドを10紹介してみた。この都市には、ざっと調べた限りでも100ぐらいのメタルバンドがいたので、実は10に絞るのにはかなり苦労した。20バンドでも良かったぐらいなのである。

他になかなか良かったのが「Morana Elske」、「Pentsign」、「Invite」、「Arbor Inversa」、「 Kill His Death!!!」、「Zagovor」、「Misanthropia」、「Utburd」、「Мо」、「Истерический Сон」、「The Unhallowed」、「Stielas Storhett」、「Old Wainds」、「Sect」、「His Name Is Franke」等である。

ムルマンスクの優良メタルバンドだけでもこれだけいるのだが、ムルマンスクがロシアの中でも突出してメタルシーンが盛んだという訳ではない。これらのムルマンスク出身のメタルバンドのほとんどが、世界的に知られている訳でもなく、ロシアでも特に人気が高いという訳でもないのである。

インドネシアと同じく、底なし沼のように無尽蔵にクオリティの高いメタルバンドが、辺境・僻地から引っ切りなしに登場してくるロシアンメタル、恐るべし。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

▼ビデオクリップのレベルも高く、ムルマンスク出身としてはイチオシの「Deva Obida」

▼「Type o Negative」クローンとしてはなかなかのレベルに達している「Glamorous Bones」

▼日本でブレイクしてもおかしくない「Town Tundra」

▼南アフリカ出身の「Lifeless Sorrow」とのスプリットをリリースしている「All the Cold」

▼比較的日本でも知られているムルマンスク出身のメタルバンドの1つ「Aruna Azura」