音楽とは共振の賜物だ。例えばギターは、6本の弦を弾いて生まれた空気の振動が音になる。そしてそんな音の組み合わせが風景となり、耳から心を震わせるのがミュージシャン。いくつもの楽器が重なるバンドでは、楽器と空気の共振はもちろんのこと、それ以上に楽器と楽器、人と人の共振がとても大事であると思う。

10年くらいバンド活動を続けている私(中澤)は、音楽アニメが好きだ。特に、バンドアニメは、意識せずとも細部を見てしまう。そんな視点から、今期のアニメ『BanG Dream!(バンドリ!)』を見ていると、一大ブームを作ったバンドアニメ『けいおん!』と決定的な違いを発見した。

・『バンドリ!』が好きだ

まず、最初に言っておきたいのは、私は『バンドリ!』が好きだということ。今回の違いも毎週楽しく見てるからこそ気づいたものである。さらに言えば、違ったところで別に面白さや物語には直接関係がない内容だ。ただ「明確に違う」というだけである。

・『けいおん!』と『バンドリ!』の違い

さて、ではこの2つは何が違うのか? ……と言うと、違うところはたくさんある。『けいおん!』は日常系で『バンドリ!』はストーリーがあるし、部活動を主体に描いた『けいおん!』とライブハウスでの活動が主体の『バンドリ!』では、物語が目指す結末も違うだろう。

同じなのは、「女子高生がバンドを組む」という部分のみだと言えるかもしれない。だが、バンドアニメ、音楽アニメとして見た時に『けいおん!』にあって『バンドリ!』にないものがある。それはバンドや楽器を演奏することに対するリアリティーだ。

・成長していくバンド

具体的な例をあげると、『けいおん!』は主人公たちが初めてバンドで演奏する時、演奏の音はバラバラである。さらに、主人公のゆいがギターを練習するシーンなどでも、ぶっきらぼうな音の質が極めて素人くさい。

それが話が進むにつれて徐々に音も噛み合ってきてアレンジも変わっていく。楽器の成長だけではなく、バンド自体の成長が音でも表現されているのだ

・最初から完璧なバンド

一方、『バンドリ!』は確かに主人公が最初にギターを持って練習している時の演奏は、素人の音なのだが、ドラムを交えた1発目のライブですでに完璧

しかも、ドラムを叩いた山吹沙綾は、走りながら音源を1度聞いたのみ。練習なしのぶっつけ本番だ。何回か聞いて楽譜に書いていたら、スタジオミュージシャンでも初見で完璧に弾ける人はいるだろう。だが、走りながら1回聞いただけでキメも複雑な構成もノーミスというのは、経験者のウマキャラ設定にしても神すぎる。

・プロでも多分できない

ちなみに私は、20代前半の頃、なぜか DEEN のドラムと UVERworld の曲をコピーしたことがあるが、キメとか変拍子とか構成無視で全部8ビートで曲調に合うように叩いてた。これは決してそのドラマーをディスっているわけではなく、知らない曲を数回聞いただけでセッションする時は、プロでもそんなもんだということである。

・楽器を弾く動き

また、演奏時の動きの違いも大きい。『けいおん!』はフレットを押さえ右手のピックで弦をピッキングして、ちゃんと “楽器を弾いている” のに対して、『バンドリ!』は、楽器に手を置いて動かしてる感じ。コードチェンジのタイミングや押さえるポジションもかなり適当だ。

ちなみに、バンドマンガの代表作『BECK』でも、アニメ化された際はギターに手を置いてるだけパターンだったので、上記の点については『けいおん!』の方が異常だと言えなくもない。

・ミュージシャンとしての気持ちとアニメ好きとしての気持ち

ただ、やっぱりミュージシャンとしては楽器をちゃんと弾いてて、なかなかまとまらない感じが描写されるのは嬉しい。だって音楽ってそんな簡単じゃないもん。誰だって「ひーひー」言いながら、考えて練習して形にした先に音楽の「楽しさ」や「美しさ」があるのだから。

前述の通り、私は『バンドリ!』が好きだが、バンドアニメと言うよりは『ラブライブ!』のようなアイドルアニメとして見ている。リアリティーより夢とドラマ性、『けいおん!』と比べるものじゃない。……と、8話「走っちゃった!」の初ライブを見て思ったのでした。おしまい。

参照元:バンドリ!
執筆・イラスト:中澤星児

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