saharin

ロシアはインドネシアと並ぶデスメタル大国で、「ペイガンフォークメタル」というジャンルに限って言うと、世界最大規模のシーンを誇る。日本人の間では、ロシアと言ってもほとんどモスクワ。サンクトペテルブルクぐらいしかイメージがわかないが、実はシベリアのオムスクやイルクーツク、ノボシビルスクなどにも大規模なメタルシーンが形成されている。

今回はそんなサハリンのメタルシーンについて、紹介しよう。

・日本の目の前にあるロシアの辺境

ロシアは韓国・中国と共に日本にとっては隣国だが、マジョリティが白人なので、外国に感じる度合いが高くなる。サハリンは稚内からはわずか50キロの距離で、博多から釜山の200キロよりも遙かに近い。「樺太」と呼ばれていたとおり、戦前は南半分が日本の植民地で、街並みに日本の建築物が残る。現在の民族構成はほぼロシア人だが、人口減少も著しく、全土で58万人しかいない。

・2015年には、あの「Limp Bizkit」も来サハリン

しかしそんなロシアにとっては辺境で、日本から至近距離にあるにもかかわらず、あまり情報が伝わってこないサハリンでも、メタルは盛ん。なんと2015年にはアメリカの超人気Nu Metalバンド、「Limp Bizkit」がユジノサハリンスクでライブまでしているのだ。

今回紹介するのは、そんなサハリンのバンドだ。なお、コルサコフ(旧日本名大泊)のBlackness以外、全てのバンドが州都ユジノサハリンスク(旧日本名豊原)出身である。

・Авард

現在サハリンで最も人気と思われるヘヴィーメタルバンド。アルファベットだと「Avard」。2007~10年までは、「White Unicorn」として活動していた。ロシアを代表するメタルバンド「Ария」や「Iron Maiden」から影響を受けており、ボーカルが暑苦しいぐらい熱唱するオヤジメタルとでも言うべきサウンド。2009・10年に、サハリン東北部ノグリキで開催された、同島を代表するロックフェスティバル「KINOgliki」に連続出演。

・Autopsy Night

ロシアと言えばブルータルデスメタルだが、サハリンにもいる。1996年にアムール州のアルハラで結成されたが、後にユジノサハリンスクに移転。2016年の『Осквернение мёртвых』も含め5枚のアルバムをリリース。三連符やピッグスクイールが目白押しだが、どことなくオールドスクールっぽさも感じさせる。

・Amerya

サハリン出身バンドのなかで、最先端の音楽を作り上げている。スタイルとしては、メタルコア・デスコアと叙情系ハードコアのミックスのようなもの。アートワークもオシャレ。2人組でライブはやっていない模様。残念なことに福島の原発事故の後、放射能の影響を憂い、ロシア西部のニジニノブゴロドに移転してしまったようだ。

・Aeteros

2009年から活動しているメロディアスデスメタル。2015年に自主制作で発表した『Riot Of Forgotten』が好評。「Amon Amarth」などから影響を受けたミドルテンポスタイル。ジャケットからも分かる通り戦士や勇者をモチーフとしており、勇ましさを感じさせるメロディ。

・Deathonator

サハリンだけでなく極東ロシアで、もっとも活動歴が長い1989年から活動するメタルバンドのひとつ。DeathやObituaryなど初期のデスメタルにメロディを付け加えたようなスタイル。僻地にありがちだが、ライブではオリジナルより「Pantera」や「In Flames」など有名バンドのカバーで盛り上がっている。イタリアに同名バンドがいるので要注意。

・Proteus

1991年に「Necrofessor」として結成され、1992年に『Proteus』をリリースした後、解散したサハリンのデスメタルの土台を築き上げたバンド。主要メンバーの兵役や転居により短期間で解散したが、ボーカリストは「Deatonator」に移籍。チャリャビンスクにも同名バンドがいるので注意。オンラインで聴ける音源は見当たらない模様。

・Blackness

サハリン第3の都市でユジノサハリンスクの外港である、コルサコフ唯一のメタルバンド。2004年から活動しており、モスクワの「Musica Production」に所属。ミドルテンポのシンフォニックブラックと言ってよいスタイルだが、ファッションを白塗りにしたりしている訳ではなく、曲もつかみ所がない。

・Excess

1995年から活動している古株で現在は活動休止中。メタルと言うよりは「Running Wild」や「Accept」などに通じるハイトーンボーカルを基調としたジャーマンメタルに近いスタイル。ハバロフスクの「10 ДВ рок-фестивале」にも参加して人気を博す。

・Red Room

ロシアは世界有数のヒップホップ大国だが、自分たちのことをラップコアと呼んでいる。しかしコア度数は低く、それよりもメロディックパンクと言って良いような、切ないメロディが多い。YouTubeのチャンネルには曲だけでなく、ユジノサハリンスク最大のショッピングセンター「City Mall」や住居、レコーディング風景の動画が多数アップされており、サハリンの若者事情が知れて面白い。

・Слёзы Морганы

アルファベットでは「Tears Morgan」。2008年に結成されたオルタナティブNu Metalバンド。Last.fmではリスナー数が607人おり、サハリンでも、もっとも人気のあるバンドのひとつ。ルックスはゴスとメタルコアが合わさった、いかにも現代風の若者。漢字で「涙」と記されたシャツを着るメンバーも。熱唱する割には音痴なのが痛い。

サハリンのメタルバンドのライブ動画を見てみると、ロシア美人が多く映っている。北海道からは目と鼻の先にこのようなメタルシーンが存在するということを意識している日本人メタラーは、ほとんどいないはず。サハリンでライブをやってロシア美女とお近づきになれるかも。また、サハリンのバンドもモスクワなど本土にツアーに行くのは大変だろうから、日本ツアーに招待してみてはいかがだろうか。

執筆:ハマザキカク
イラスト:Rocketnews24

▼なんと世界的スーパースターLimp Bizkitがサハリンでライブ!

▼Авард「Пепел на руках」。臭メロと呼んで良さそうなスタイル

▼Autopsy Night「Осквернение Мёртвых/Desecration of the Dead」。ブルータルデスメタルというより「Cannibal Corpse」に近いサウンド

▼Amerya「Always Yours」。2010年代風サウンドを完全に体現している

▼Aeteros「Lust. Pain. Hate」。高低のツインボーカルのコントラストが勇ましい

▼DEATHONATOR「Only For The Weak (In Flames cover)」。オリジナル曲よりカバーの方が盛り上がる

▼Blackness「Третий призрак」。ブラックメタルというより、シンフォニックなダークメタル

▼EXCESS「Снова в небо」。世界中にいそうなオヤジ系バンド

▼ユジノサハリンスク最大のショッピングセンターの内部動画

▼Слёзы Морганы「Я Живу В Тебе (клуб Хамелеон 30.06.08)」。ここまで来るとほとんどメタルとは関係ないが