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流行の発信地・青山。大通りには、お洒落な店の数々やレコード会社が立ち並び、道行く人みんなが業界人に見えるこの場所。「青山に住んでる」というだけで「スゲー!」となる東京のセレブスポットの1つである。

60年代のフォークシンガー高田渡さんも「住むなら青山に決まってるさ 銭があればネ!」と歌っているように、高級地としての歴史は長い。そんな街に、業界人もノックアウトの高コスパそば屋がある。流行に流されず50年以上生き残る『信越そば』だ。

・上京直後

少し昔の話をしよう。私(中澤)は、東京に出てきた直後、プロミュージシャンになるために付き人のようなことをやっていた。師匠の名前はKさん。

ある日、仕事が長引いて帰りが遅くなった私たち。Kさんが「そばでも食おうぜ」と、帰り道2人で立ちそば屋に入った。その立ちそば屋はちょっと変わっていて、「1品入りそば」「2品入りそば」「3品入りそば」という食券があり、好きな天ぷらを選べるシステムだった。

・忘れられない味

ろくにご飯を食べてなかった私は、2品入りを注文し、一心不乱にそばをすすった。……ウマい! ウマい!! 時間は夜明け前、右も左もわからない大都会の中、明日がまったく見えない不安を映したように空は暗い。そんな中で、確かに感じたそばのウマさは、今も忘れない。
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後日、もう一度このそば屋に行きたいと思ったのだが、意識が朦朧としていたせいか、そば屋の名前も店の場所も全然わからなかった。師匠に聞いても「いつ行ったヤツのこと?」という感じ。もはや夢か幻みたいな話である。

・10年後

あれから10年、私はくしくもウマいそば屋を求めて色んな街を放浪する「立ちそば放浪記」という連載を始めたわけだが、あのそばを超えるそばには出会っていない。そんなある日のこと。

フラッと入ったそば屋の券売機に「1品入りそば」「2品入りそば」「3品入りそば」という食券を見つけた。場所は東京メトロ外苑前駅徒歩3分ほどの場所。
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・店の名前が思い出せない理由

店の名は「信越そば」というらしいが、いくら探しても表に店名は見当たらない。名前が思い出せないはずだ。当時、確かに外苑前で仕事をすることが多かったが、こんなにすぐ近くのそば屋に入ってたなんて盲点だった。車での移動中に入ったから、もっと駅から離れた場所だと思ってた。
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・10年越しのいただきます

あの時と同じ2品入りの食券を買い、バラ肉揚げとゆで卵の天ぷらを指定。すぐに置かれたそばは、つゆに溶け出す衣まであの日のまま。もう待ってはいられない。なにしろ10年待ったのだ。いただきます!
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塩分控えめの優しい味が体にしみる。出汁を吸ったホロホロのバラ肉揚げを噛むたびに、あの日の甘辛さがあふれ出す。そんなつゆの味に中太のそばが非常にスッキリと合っている。今、万感の思いを込めて言おう。ウメェェェェエエエエ!!!!!!!!
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これこそまさに私の青春の味。当時のメンタルも影響してるだろうし、思い出の中で味は美化されてしまっているかもしれない……と思っていたが、無用な心配だったようだ。
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・ありがとうKさん

最後に、なぜ私がこんなに細かく状況を覚えていたのか。それは、自分のお腹の空き具合を過信したKさんが、3品入りを注文して天ぷらを食べきれなかったからだ。当時Kさんは40代後半だったと思うが「子供か!」と思うエピソードだったため、強烈に印象に残っていたのだ。色んなものをくれてマジありがとうKさん。

・今回紹介した店舗の情報

店名 信越そば
住所 東京都港区北青山2−13−4
営業時間 24時間営業
定休日 無休

Report:立ちそば評論家・中澤星児
Photo:Rocketnews24.
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