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私(佐藤)は最近、よく思うことがある。奇抜な商品開発に力を入れすぎていて、本当に愛されるものを作っているのか? と。メーカーは話題性ばかり意識して、1シーズンで売り切る気しかないように思える。商売だから当然だろう。話題性を狙って、短期勝負で利益を出す。実にスマートなやり方だ。

しかし、半年と経たずに忘れられるから、また奇抜商品を出すことになる。利益は出るけど自転車操業のような状態になってはいないだろうか? その商品は本当に愛されているのか? また食べたいと思ってもらえているのだろうか、疑問を持たずにはいられない。そう思いながら、東京・上野の二木の菓子に行ってみたところ、手書きPOPの文言に胸を打たれた。商品に対する愛情をひしひしと感じるじゃないか。

・奇抜商品にはもう飽きた

正直に言うけど、ポテトチップス●●味とか本当に飽きた。面白そうとは思うけど、あまり買う気が起きないし、仮に買っても2回目はない。おそらくメーカーも新しいものを作らないといけないだろうから、必要に駆られてやっていると思うけど、奇抜さだけを追いかけすぎて、ネタ切れ感が否めないのだ。

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・手書きPOPにハッとした

ある日、上野のアメ横をブラブラしていたときのこと、たまたま立ち寄った二木の菓子でハッとさせられた。私は島根の出身なので、二木の菓子に思い入れがある訳ではない。テレビCMもリアルタイムで見たことはないし、二木ゴルフも名前だけしか知らなかった。他の量販店と同じだろうと思い込んでいたのだが、そのお店の手書きPOPは違った。たとえば、以下の通り。

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「このおせんべいを作った人 本当に天才ですよ!! 年間、数百ものせんべいを試食しますが、この味起屋のせんべいほど上手に味付けをするせんべい屋に出会えることは稀です!! 毎回ここのせんべいを食べるたびに、ほんと天才だなー! と感心してしまいます!!」

・他との付き合いがあるなかで、「天才」と称する

「買ってくれ」と訴える文言がひとつもない。販売店なので、数百のせんべいを食べるのは確かなのだろう。その舌で味わって、「天才」と称えるのだから、ウマいに違いないと思えてしまう。

実際に取り扱っている商品は、かなりの種類あるだろう。当然多くのメーカーとの付き合いもあるなかで、1社を「天才」と称する姿勢が素晴らしいと思う。大人の事情を考えると、なかなか言えることではないと思うのだが。またこんなのもある。

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「コレ! 売りたい!! たまたま上司と静岡に行った時に食べて一言!! コレ! 売りたい!!! この美味しさをみなさまにお伝えしたくて……。めちゃくちゃ良いだし出てます笑 私の要望をすぐに叶えてくれるバイヤーに感謝してます」

・商品に惚れた瞬間

この商品と出会った感動が「コレ! 売りたい!!」の一言に集約されている。このPOPにも、売り文句が一言も記されていない。それなのに、思わず手に取りたくなってしまう。「商品に惚れた」、その瞬間を垣間見ているようだ。さらにこのPOP。

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「商品を育てるとはこういうことかも……。失礼ながら当時は無名だったエビアラレ。しかし私達が満場一致で美味しいと思ったエビアラレの良さを、どうしてもお客様に知ってほしかった……。徐々にファンが増え今では “エビアラレ無しでは……” という方までいたり、他店でもお見かけするようになりました。そして思いました。商品を育てるとは、こういうことなのかと。親が子を思う気持ちに少し似ているのかもしれません……(笑)」

・他社が扱うことも喜びに

良いものを確信を持って売る。「今、世間的に売れているから」とか「流行っているから」とか、そういう理由ではなく、「この商品を売りたい」と従業員の総意で、この商品はこの場所に置かれている。そういう背景が見えるところが、素晴らしいと思う。

そして自社だけでなく他社にまでその影響を波及させてしまったようだ。「うちが最初だったのに」といった嫉妬もなく、まるで親のような気持ちで、この商品をあたたかく見守っている。商品への愛を感じずにはいられない。

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実際にえびあられを購入し、食べてみると、小粒で歯ごたえがしっかりとしており、エビの風味が口いっぱいに広がる。これは一度食べ始めたら、軽く1袋開けてしまうだろう。食べる手が止まらなくなる中毒性を持っている。それくらい美味だ。

・思いも棚に並べている

愛あるPOPが生み出される理由もまた、POPで確かめることができた。店内の片隅にこうある。

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「本当に幸せな仕事をさせていただいております。自分が美味しいと感じたものをすぐにお客様にお伝えできる! それって本当にありがたいことです。そして美味しかったよと言っていただける。改めてコレを通じて幸せを感じました。この幸せがまたどなたかに伝わることを願っております。」

誰にも気づかれないかもしれない、商品棚の片隅に記されたこの言葉。ハートに切り抜かれた厚紙を通して、お店の姿勢がうかがえるようだ。数字だけをにらんだ販売戦略では、到底届けることができない思いも、二木の菓子には陳列されている。

Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼上野の「二木の菓子」のアツいPOP。思わず商品を手に取ってしまう
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▼商品の魅力と共に、会話の風景が頭に浮かぶ
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▼確かに輸入商品に抹茶味がないことに気づかされる。さりげなく人気商品であるところを織り込むところもGOOD
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▼実際に食べてみると、抹茶のほろ苦さが甘さのアクセントになっている
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▼まさしく私が「レーズンだけだと苦手」だったので、この文言に惹かれた
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▼ほのかな甘さとほど良い食べ応え。小腹を満たすのに良い。優しい甘さがクセになる
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