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皆さんは覚えているだろうか? 2015年9月に発売された、いまだかつてない音楽本のことを。アフリカのメタルシーンを詳しく紹介したその書籍『デスメタルアフリカ』はネット上で話題となり、その著者ハマザキカク氏は、人気番組「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)に出演を果たしたのである。

あれから約半年を経て、再び衝撃的な音楽本の発売が始まった。ハマザキ氏の編集による書籍『デスメタルインドネシア』は、デスメタルアフリカを凌ぐボリュームで2016年7月4日より発売開始となった! この書籍により、知られざるインドネシアのメタルシーンの全貌が明らかになる! まさかガムランを使ったメタルバンドがいるとは!?

・奇抜書籍を数々手掛ける

ハマザキ氏は言うまでもなく、ロケットニュース24で「辺境音楽マニアシリーズ」を寄稿している、辺境デスメタル・ヒップホップ愛好家である。そのほかにも、旧ソビエトの音楽シーンを紐解いた『共産テクノ』や、性交未経験の偉人を紹介した『童貞の世界史』などの編集を手掛け、自らの出版社「パブリブ」から出版している。

・あまり知られていないアジアシーン

さて今作は、アジア圏のバンドの魅力を日本に伝える通信販売店「Asian Rock Rising」を運営する、小笠原和生氏によるものだ。ハマザキ氏は編集者として、今作に携わっている。欧米のメタルシーンについては、日本にもその情報が多く届けられるのだが、アジアのシーンとなると、その情報量は極端に少なくなる。

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実はアジアのなかでもインドネシア共和国は、音楽シーンに極端な傾向が見られるようだ。全人口に対するメタルバンドの割合は、それほど高くない。しかし、メタルバンドのなかでも、ブルータル・デスメタル(より過激なデスメタル)の割合は世界1位、ブルータル・デスメタルバンド数はアメリカに次いで2位となっている。

・インパクトのあるバンド

多様な民族と言語で構成されるインドネシアは、地域や年齢を問わず、広い層にブルータル・デスメタルが浸透しているそうだ。アフリカよりもその分野で進んでおり、レベルが高く長年活動しているバンドも少なくないのである。

その証拠として「世界過激音楽」の第1弾として発売されたデスメタルアフリカは、160ページであったのに対して、デスメタルインドネシアは351ページもある。そのなかから、特にインパクトの強いバンドを紹介しよう。

・Lord Symphony

インドネシアといえば、民族楽器のひとつ「ガムラン」を想起する人もいるだろう。このバンドは、そのガムランとメタルを融合させてしまったのだ。それだけではなく、叙事詩「マハーバーラタ」と伝統音楽をも取り込み、メロディックスピードメタルへと昇華している。聞いててなんだか、フワフワと落ち着かない感じになるのは気のせいだろうか。

インドの音楽を取り入れたイギリスのバンドKula Shakerが一瞬頭をよぎるが、そこまで洗練されていない部分がある。田舎から都会に出て、また田舎に帰る感じ。

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・EDANE

デスメタルというよりも、正統派のハードロックバンド。インドネシア随一のギタリストがバンドを率いており、そのテクニックは他のギタリストの追随を許さないレベル。そのサウンドを聞くと、ヴァン・ヘイレン、スティーブ・ヴァイ、ジョー・サトリアーニあたりの影響を色濃く垣間見ることができる。

初期の楽曲は、欧米バンドのパクリかと思うほど、ベタベタなのだが近年のサウンドは、「それっぽい」ものからの脱却を果たそうとしている様子が伺える。踏ん張ってる感が心地いい。

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・GUTTURAL DISEASE

インドネシアのレベルの高さを、如実にあらわしているバンド。強烈なブラストビートをひたすら繰り返す様は、凄まじいの一言に尽きるのだが、何をやってるのかわからないうえに、スネアドラムのカンカン! という音がやたら耳について、何だか笑ってしまう。でも、スゴイ。と思う……。

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・METALLIC ASS

スラッシュメタルが大好き過ぎて、限りなく近づいた感じが否めないバンド。そのサウンドから、メタリカとメガデスが丸出しになっている。しかし破壊的なイメージはなく、どことなく明るさが感じられる。とにかく、スラッシュメタル大好き~! という雰囲気が微笑ましい。

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・Trauma

バンド創設者の1人が、怖い犬に咬まれるそうになったトラウマを抱えていたことから、その名がついたバンド。1992年結成の古株で、ジャカルタシーンの重鎮。国内外で積極的に活動しているそうだ。日本のバンド事情にも詳しく、お気に入りを尋ねられると、なぜか小澤マリアさんの名前を挙げている。まあ、お気に入りを尋ねられたから、そう答えたのか……。

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これらは、掲載バンドのうちのほんの一部。数多くのバンドへのインタビューも行われているので、インドネシアのシーンをより深く理解できるだろう。とにかくインドネシアのメタルシーンは幅広い層に支持されると共に、その歴史は古く、絶えず進化している。世界的に活躍するバンドが登場するのは、そう遠い未来ではないのかも。

参考リンク:Amazon デスメタルインドネシア: 世界2位のブルータルデスメタル大国
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼メタルにガムランを用いた「Lord Symphony」

▼インドネシア随一のギタリストが率いる「EDANE」

▼強烈なブラストビートで何をやってるかわからない「GUTTURAL DISEASE」

▼スラッシュメタルが大好きすぎる「METALLIC ASS」

▼ジャカルタの重鎮「Trauma」