GENETIKK2

以前の記事で、ドイツのヒップホップシーンで「Bushido」や「Chakuza」など、日本語に由来する言葉を用いる事が流行っていると紹介した。日本の神秘的なイメージや格闘技、ゲームなどが格好いいと思われているのである。

さてそんなドイツヒップホップシーンの中でも、完全にコンセプトを日本に振り切ってしまったヒップホップグループがいる。その名は「Genetikk」。作品で日本を取り上げる彼らなのだが、どうもその抱いているイメージが間違っている気がするのだが……。

GENETIKK

・最新作のジャケット

まず彼らの最新作のジャケットに注目してみよう。アーティスト名である「Genetikk」を日本語の何の変哲もないゴシックフォントで「ゲネティック」と記している。肝心のドイツ語のアーティスト名とアルバム名『Achter Tag』は、右上に小さく掲示されているに過ぎない。

そして左側には「一条の矢は折るべく、八条は折るべからず」(Genetikk『Achter Tag』より引用)という言葉が記されている。「束となれば強い」という意味の日本語のことわざらしいのだが、正直このような言い方は日本では一般的とはあまり感じられなかったので、試しにGoogleで日本語検索したところ、ほとんど何も出てこなかった。そして日本語の縛りを外すと、このアルバムに関係するドイツ語の書き込みばかりが出てきてしまった。

・デビュー時は特に日本を意識していない

彼らはメンバーのKaruzoとSikkareによって、2009年にフランス国境近くのザールブリュッケンで結成され、『Foetus』というアルバムでデビューした。当初はコミカルな道化役を演じていたが、特に日本のイメージを活用していた訳ではない。

・イカつい見た目でメロディアス

しかしドュッセルドルフを拠点にする中堅ヒップホップレーベル「Selfmade Records」に移籍してからリリースした、『Voodoozirkus』というアルバムで「Konichiwa Bitches」という曲を収録し、日本への興味を見せ始める。

(注:なお、「Konichiwa Bitches」というフレーズは「Wu-tang」(米ヒップホップグループ)が、ヒップホップ系コメディー番組『Chappelle Show』で発した言葉が由来しており、同名の曲をスウェーデンのアーティスト「Robyn」が発表している)。

2013年にリリースした『D.N.A』のビデオクリップでは、ガイコツイラストを施した銀行強盗風の目出し帽の姿で現れ、その見た目にもかかわらず、キャッチーでメロディアスな曲が人気を博した。

・最新作でアクセル全開

そして2015年に、冒頭で述べた『Achter Tag』でやり過ぎなぐらい、日本イメージを全開アクセルで踏み込むに至った訳である。しかしそのビデオクリップを見てみると、日本人としては違和感を抱かざるを得ない日本イメージが頻出しているのだ。

・随所におかしなところが

たとえばこの曲のビデオを見ると、いきなり冒頭で出てくる「八日目」という赤い電光掲示板。そしてハングルが書かれたコンテナの様なもの。「キムチ姫」という意味だろうか。シーンは変わり、日本の銀座のスナックの様な店でホステスに日本酒を注がれながら、1万円札を勘定している。

さらに、サムライと忍者が合わさったようなアニメ。ところが、曲は後半で日本イメージを放棄し、ドリフトする車や格闘技が出てくる。

・日韓ごちゃ混ぜに

この曲だけではない、『Überüberstyle』という曲のビデオクリップでも、インチキ日本イメージが頻出。こちらのオープニングは日本庭園。そして、どことなく日本のコンビニを想起させる店内風景や、日本の寺の様な建物。「パルチザン」というあまりに唐突で意味不明な表記が出現したり、日本刀を背負う女性が登場したり。

驚くべきは、太極旗の旗のワッペンとハングルが記された刺繍だ。追い打ちをかけるように、「浪人」というキル・ビル風の毛筆体……。と、日本と韓国が混ざったようなイメージを活用しているGenetikk。

・あえてインチキ日本にした?

そして彼らのプロデューサーの名前は「Sensei」。実はその人物は日独ハーフでドイツで活動するDJ・プロデューサー、Samon Kawamura氏。彼はその筋では有名な人物だった……。日本と韓国の違いをよく認識していないドイツ人が、適当に作ったビデオクリップではなく、日本人のハーフがあえてインチキ日本のイメージでプロデュースしたという事だろうか。

しかもなんとこのアルバム『Achter Tag』は、2015年5月のドイツチャートで1位を獲得するまでの人気を得てしまったのだ。ちょうど1年前のことだが、こんな “トンデモ日本” のビデオクリップがドイツで大流行した事は、日本では全く報じられなかったのである。

一方、日本でも同じ頃に「中二病で学ぶドイツ語」という、日本で蔓延(はびこ)る “トンデモドイツ語” をテーマにしたセミナーが日独協会主宰で開かれていたのだった。講師は伸井太一氏と、タベア・カウフ氏だ。日本とドイツ、日独防共協定の頃からお互い勝手なイメージを相手に抱き、すれ違いまくっていたが、それは今でも変わらないようである。

参照元:YouTubeAmazon.de(ドイツ語)、公益財団法人日独協会
執筆:ハマザキカク

▼GENETIKKの2015年発売の作品『Achter Tag』のPV。何かがおかしい

▼この曲『Überüberstyle』のPVも何かが間違っている