CINDYCHACO

メタルは白人男性の音楽と思われがちだが、最近ではアフリカ大陸で、黒人男性メンバーで構成されるメタルバンドも増えてきていることが判明した。そして、男性より数は圧倒的に少ないものの、女性のメタルミュージシャンもそれなりに存在する。今回はそんな、女性メタルミュージシャンについて、お伝えしたいと思う。

・日本では「嬢メタル」

日本では全メンバー女性のガールズメタルバンドや、「Nightwish」や「Evanescence」など、フロントボーカルを女性が務めるスタイルに対して、「嬢メタル」という名称が定着しているぐらいだ。なお英語では、「All Female Metal」や「Female Fronted Metal」などと言葉を羅列して呼ぶことはあっても、それらが名称としてジャンル化したとまでは断言しにくい。

・女性ドラマーは肉体的にハードルが高い

さてそんな女性メタルミュージシャンだが、その多くがヘビーメタルやスラッシュメタル、ゴシックのようだ。歌唱力の面では、男顔負けの女性ボーカルも多く、ギターやベースなどの弦楽器は、性差による肉体的限界は特にないだろう。

しかしドラムとなると異なり、特にブラストビートという、全ての拍を200bpm以上の速度でスネアとバスドラ、そして金物を同時、あるいは交互に叩く高速ビートは、演奏するのに肉体的なハードルが高い。

デスメタルやブラックメタルで多用される、このブラストビートというドラムの演奏法は、実際に本格的に叩くとなると、相当ハードなトレーニングが必要で、男性ドラマーよりも女性ドラマーの数が圧倒的に少なくなるのは、その点に起因する。

・爆速ブラストビートを叩くCindy Chaco

しかし数は限られたとしても、女性でブラストビートを叩くデスメタルドラマーも何人か存在するのである。そんな女性ブラスターの中でも特に高速なドラミングを誇るのがブルータルデスメタルバンド「Embodied Torment」のドラマー、Cindy Chacoだ。

このEmbodied Tormentは、ブルータルデスメタルの中でも、特に速さや複雑さを競い合うスタイルを生み出した「Disgorge」や「Deeds of Flesh」などと同じカリフォルニア出身。

そして所属するレーベル「New Standard Elite」もカリフォルニアに所在しており、「Iniquitous Deeds」や「Gorgasm」、「Disentomb」など、爆速ブラストビートを基本としたブルータルデスメタルバンドをリリースしている一流レーベルだ。なお同レーベルの他のバンドでも女性ドラマーは存在しない。

・常時200bpmを超える楽曲も演奏

彼女が叩く姿を見てみると、いかにも涼しげに、軽々しくブラストビートを叩いている。ブラストビートは肉体的性差により制約があると前述したものの、実はそのコツはいかに力(りき)まないかに掛かっているとも言われる。

ブラストビートの中でも、ドラムスティックをリムに引っ掛けることによって、1回の振りで2回スネアを叩く「グラヴィティブラスト」という高度な演奏法があるのだが、それも余裕でかましている。平均的な速度も全体を通してほぼ常時200bpmは超えており、250bpmを超えるパートもある。

2000年台前半にブルータルデスメタル界最高速では、と目された「Brodequin」というバンドの「Judas Cradle」という曲も難なくカバーしている。

・余裕しゃくしゃくの表情

まるでマッチョな男並みの腕。ブラストビートは高速間隔で叩くため、音の迫力の割に見た目の派手さは薄く、あまりこの手の音楽に馴染みがないと、一見地味に見えるかもしれない。背筋を伸ばし、余裕しゃくしゃくの表情で、まるでドラムマシーンのように正確に乱打。この手の音楽は変拍子やリズムチェンジが多く、曲を覚えるだけでも大変なはず。

・旦那にドラムをプレゼントされたことから始める

さて超絶女性デスメタルドラマーのCindyは、現在30歳のようだが、ドラムを始めたのは18歳。そしてなんと結婚相手で同じバンドのメンバーでもあるボーカルのMatt Chacoからドラムセットをプレゼントされて始めたとのこと。しかも本格的に始めたのは22歳からだそうだ。

さらに彼女はデスメタル専門のデザイン会社「Flesh Grind Graphics」の経営をしており、バンドのジャケットやロゴまでも手がけているのだ。

・まさに男勝り

見た目的にもブルータルデスメタルの典型的な格好をしており、女性らしいファッションをまとっている訳ではないので、言われなければ女性と気がつかないかもしれない。そもそもブルータルデスメタルはエクストリームミュージックの中でも、最過激派のひとつに位置し、ミュージシャンだけでなく、女性リスナー自体非常に少ないので、貴重な存在だ。

・ぜひ日本にも来て欲しい

女性らしさを特に強調する事は一切ないCindyだが、実は女性ドラマーを育成するために「Female Drummers of Extreme Metal」というコミュニティーサイトもFacebook上で運営している。ただ残念ながら、こちらの方は彼女の後に続く人が現れないためか、ほぼ停止している。

あるインタビューでは、アジアツアーをしたいと答えているので、是非とも来日を果たして、そのドラミングの勇姿をこの目で拝んでみたいものである。

参照元:YouTube、Facebook「Female Drummers of Extreme Metal
執筆:ハマザキカク

▼ブルータルデスメタルバンド「Embodied Torment」の女性ドラマーCindy Chaco。涼しい顔で繰り広げる高速ドラムは圧巻

▼2000年台前半にブルータルデスメタル界最高速といわれたバンド「Brodequin」のカバー、「Judas Cradle」

▼旦那さんとの演奏の様子