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世の中には、天才があふれている。偉業を成し遂げれば天才と呼ばれ、人と違う角度から物事を見れば天才と称されることもしばしばだ。「天才の意味が少々軽くなってやしないか?」とも思わなくもないが、その話は置いておこう。

そもそも何を持って天才とするのかは定義が難しく、人それぞれに「あの人は天才」「この人も天才」と思うところがあるハズだ。そんな中、現在の日本音楽業界の中で “誰もが認める天才” を挙げるとするならば、『井上陽水』以外にいないと思うのだがいかがだろうか?

・“誰もが認める” 天才

始めに断わっておくと、筆者は特別 井上陽水のファンではない。幼い頃から父の車の中で井上陽水のカセットが流れていたから曲は知っているし、中学生の頃に『少年時代』も購入した。ただ、あとはベストアルバムをレンタルしたくらいで、他にも好きなアーティストは大勢いる。

だが、最近になって「誰もが認める天才は井上陽水だけだな」と確信してしまった。個人的にはマキシマム ザ ホルモンの亮君は天才だと思っているし、TKこと小室哲哉も天才だと信じている。ただ、それを人に話すと必ず納得しない意見も出てくるのだ。

・作詞能力が神の領域

先述したように、誰を天才だと思うかはその人の自由だから当然の話なのだが、井上陽水の名前が出た瞬間、その場にいる全員が納得する100%納得するぐうの音も出ないほどに納得する。まるで水戸黄門の印籠のように、全員が天才・井上陽水にひれ伏すのだ。

では一体、井上陽水の何が天才なのか? 透き通るような超美声や、作曲をするのにデビュー当時は楽譜がロクに読めなかったこと(現在も苦手らしい)は、置いておこう。今回は散々語り尽くされているが、もっともわかりやすい作詞における天才っぷりに絞ってお話ししたい。

・スゴすぎる歌詞の数々

まず1973年に発売され、日本音楽史上初のミリオンセラーアルバムとなった『氷の世界』より「氷の世界」の冒頭部分である。

「窓の外ではリンゴ売り 声をからしてリンゴ売り きっと誰かがふざけて リンゴ売りのまねをしているだけなんだろ」

ハッキリ言って……「え?」である。本人も後年「なんでリンゴ売り? って言われても困りますね~」と発言しているが、歌詞がメチャメチャだから天才なのではない。結論は後述するとして、ここからは何曲か続けて、謎すぎる歌詞をピックアップしよう。

リバーサイドホテル

「ホテルはリバーサイード 川沿いリバーサイド 食事もリバーサイド Ohリバーサイド」

東へ西へ

「昼寝をすれば夜中に眠れないのはどういうわけだ」

アジアの純真

「白のパンダをどれでも全部並べて」

……と、ほんのほんの一部だが、どう考えても意味不明な歌詞ばかりなのだ。ただ「意味不明 = 天才」というわけではなく、筆者が思うに井上陽水の歌詞の天才さは「歌詞そのものはよくわからないのに、なぜかアリアリと情景が浮かぶこと」にあると思う。

かの有名な『少年時代』の歌詞も、「風あざみ」「宵かがり」「夢はつまり思い出のあとさき」……と単品で見ると意味がわからないが、1曲聞き終わる頃には、なぜか切なさや懐かしさを強く思い起こさせる神曲に仕上がっているのだ。こんな人は他にいない。

・どう考えても天才

また、「好き」や「愛してる」などの簡単な表現を滅多に使わずに、いつの間にか珠玉のラブソングを完成させてしまうのだから、やはり井上陽水の歌詞は天才としか言いようがない。さらには天性の超美声や作曲能力が加わってくるとなれば、“井上陽水天才論” に異論がないのも頷ける。

とはいえ、おそらく本人だけは自分を天才だとは思っていないことだろう。……そこもまた天才だが。筆者と同じレベルで「たしかに井上陽水にはいい曲が多いな」と思っている人は、いま1度歌詞をじっくり見ながら曲を聞いてみてほしい。マ・ジ・で! 天才だから。

参考リンク:井上陽水公式サイト
執筆:P.K.サンジュン
イラスト:稲葉翔子

▼今のところ「井上陽水は天才じゃない」という人に会ったことがない。
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