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日本を代表するロックバンド「人間椅子」。日本でも屈指の音楽フェスであるオズフェストに2回出演し、もはやその実力は誰もが認めるところとなった。押しも押されぬロック界の大御所である。ここ数年、精力的に活動しており、毎年確実に作品をリリースしている。

そして今年、早くも新譜『怪談 そして死とエロス』を2016年2月3日に発売するのだ。2013年から彼らをつぶさに追いかけている私(佐藤)は、その畳みかけるような意欲的な活動に、日々驚かざるを得ない。アルバムを重ねるごとに、一歩また一歩と前に進む姿は、言葉通りに鬼気迫るものがある。今作もまた、寡黙な巨象がジッと目をこらすような迫力と戦慄に満ちている。

・なぜ「怪談」だったのか

人間椅子といえば、25年を越える活動を通して一貫していることがある。それは日本語による詞と、正統派のハードロックだ。初期の作品は、文学を題材にした楽曲が多く、その根底にあるものは、オドロオドロしい「怪談」である。

今作はそのど真ん中ともいえる怪談をテーマにしているのだが、なぜ今になって、真正面にそのテーマを据えて作品を作りあげたのだろうか?

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記者「なぜ今、怪談をテーマにしたんですか?」

和嶋慎治(ギターボーカル)「これをテーマにしたのは、誰もが知っている言葉で、自分たちらしさを表現しようと思ったからなんですよ。ここ数年、バンドの認知が高まって、手ごたえを感じているし、海外からも僕らに対する反応があることを実感しています。もっと、自分たちの音楽を聴いて欲しい。そういう意味合いを込めて、シンプルで根本的に自分たちのなかにあるテーマにしました」

記者「どの作品も、テーマありきでアルバムを作りあげるんですか?」

和嶋「ここ数作はそのパターンで来てます。先にテーマを決めた方が、途中でブレないし、まっすぐに進めるんですよね」

・それぞれの作曲方法

作品に着手し始めたのは、2015年9月終わりのことだった。昨年は盟友筋肉少女帯との共作や、アニメやドラマ作品への楽曲提供。もちろんその間もライブ活動も行っている。さまざまな活動が交錯するなかで、いかにして作品を作り上げていくのだろうか?

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和嶋「僕は普段から曲のアイディアを貯めていますね。リフのストックを貯めて、それを出していく感じ」

記者「リフはどういう形で貯めてるんですか? 録音してハードディスクに保存したり?」

和嶋「それだと、振り返るときにどこに行ったかわからなくなるから、会議とかで使うテープレコーダーを使うようにしてますね。巻き戻したり早送りしたりしてわかるでしょ。まあ採用するリフは、何十個作ったなかから1個だったりするんだけど。あとは、イメージを先に描いて、MTR(マルチトラックレコーダー)でまとめることもある。そっちの方が自然な流れでできることが多いですね」

記者「鈴木さんはどんな感じで曲を作るんですか?」

鈴木研一(ベースボーカル)「俺は、ボイスレコーダーで録ってますね」

記者「やっぱり和嶋さんのように、普段からストックして、それをリリースする感じですか?」

鈴木「いや、曲作りの期間に入ってからギターを触りだして、採用しなかったリフは全部消す」

記者「え? もったいなくないですか?」

鈴木「しっくり来なかったものを取っておいてもしょうがないでしょ。もし自分のなかでそのリフが蘇ったら、いいものかな~と思うけど」

記者「ストックがないなかで作っていくのはキツくないですか?」

鈴木「そうだねえ。今回は、いいリフが浮かぶまで寝ないって決めてやってたから、おかげで昼夜逆転しちゃって」

記者「それは大変でしたね」

鈴木「いまだに、昼夜逆転のリズムが抜けなくて、夜眠れないんだよね(笑)」

和嶋「え!」

ナカジマノブ(ドラムボーカル)「え! まだリズムが抜けないの。そりゃ大変だね(笑)」

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・ダルマの目

記者「ノブさんは曲を作られる時に、やっぱりギターを弾きながらですか?」

ナカジマ「普段弦楽器弾かないからね。だからレコーディング期間に弾くんだけど、頭に浮かんだ音をすぐに弾ける訳じゃないから、まずケータイに鼻歌で録音して、それをあとからギターで確認する感じ? たぶんね、ギタリストじゃないから、セオリー通りのものが出て来ないんだよ。それを、和嶋くんや研ちゃん(鈴木)にこんな感じって伝えて、みんなで曲にする感じかな。リフで曲作りってこれまでやったことがなくて、人間椅子に入ってからだね」

記者「その曲に和嶋さんが歌詞をつけるんですよね。今作では、ノブさんボーカルの『超能力があったなら』(M10)がとてもノブさんにふさわしい歌詞だなと思いました」

和嶋「歌詞って、ダルマの目なんですよ。曲をダルマに例えるなら、その目を入れるのは歌詞。だから、その人の声を思い浮かべて歌詞を作るようにしてる。こう言うだろうなあと思って」

鈴木「和嶋くんの歌詞がのると、やっぱり曲が生きるというか、しまるんだよね」

曲の作り方は三者三様。しかしそれがひとつになるときに、「人間椅子」という表現に昇華されるようだ。全12曲の今作において、もっとも苦労した作品はどれだったのだろうか?

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・生きること

記者「今作でもっとも苦労されたのは、どの曲でした?」

和嶋「『恐怖の大王』(M1)ですかね、いろんな意味で。この曲はスターウォーズのダース・ベイダーをイメージして作りましたね。悪なのに、みんな大好きでしょ。悪なのにポップというか。最後に人間臭さを取り戻す、そんなところをイメージしました。実は最初の歌詞は、ダークサイドオンリーになってしまって……」

ナカジマ「ヤバかったね、言葉が強烈だった」

和嶋「そう、それで歌入れもほぼ終わってたんだけど、研ちゃんがご飯から帰って来てポツリと、この歌詞で大丈夫かと。僕もこのままではマズイかな~と思って、全編書き直しましたよ。日程的に申し訳ないと思ったんだけど。愛を忘れてた」

記者「愛というのは、エロスに通じる部分ですか?」

和嶋「というより生きることに。『泥の雨』(M9)を書いてるときに、今作のテーマは怪談で行きたいって思ったんだけど、いわば怪談とは死者と生者の交流なわけです。死を見つめることによって生のありがたさを実感するといいますか。そしてエロスとは、生のきらめきでもあるわけですね。つまり全体を通して、「生きる」ことを表したかったんですよね」

実は今作を制作するにあたって、バンド内では大きな変化が起きていた。それは鈴木さんが他の仕事を離れ、バンド1本になったことである。アルバム作りにどんな影響があったのだろうか?

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・時間をかけて

記者「やっぱり仕事を辞めて、バンド1本になったことの影響は大きかったですか?」

鈴木「そりゃあね、全然違いますよ。いつもより時間をかけて、リフや曲を作ることができたから。今回はすげえ考えたよ、今までが考えてなかったって意味じゃなくてね。たかだか4小節、8小節かもしれないけど、かける時間が全然違う訳ですよ」

記者「集中できたと」

鈴木「それもあるけど、時間をかけることができるから、曲の組み立てを、何回も何回も考えることができるんですよ。それと、これまで考えなかったことを考えるようになったと思う」

記者「それは例えばどんなことですか?」

鈴木「ハードロックとは何かを考えたかなあ。普段洋楽を聞くけど、何が良い音楽なのかとかすげえ考えてひとつ思ったのは、この曲いいなって思うのは、歌詞が良くて、ボーカリストの気持ちが入っているからいいんだよね。気持ちが入る歌詞だからこそ、いい曲なんじゃないかって思う」

和嶋「それはあるね」

鈴木「俺は和嶋くんに詞を書いて欲しいなって思う。やっぱいい詞を書いてくれるから。いい詞だからこそ気持ちが入る。演奏する側にとって歌詞が大事だなって気づいたかな。いろいろ考えて」

今作は今までにも増して繊細かつ大胆に仕上がっている。ひとつひとつ曲が仕上がっていく段階で、ドラムのナカジマさんはこう感じたそうだ。

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・攻めのリフ

ナカジマ「リフがね、攻めてるんだよ。2人から出てくるリフが。妥協してないなってのを実感として感じました。ひとつひとつの音、リフが生きてる」

和嶋「ぜい沢なリフの展開を意識しましたね。今まで以上に海外の人が聞くことになると思ったので、力が入りましたね。いい意味でハードルが上がったと思いますよ。楽曲の階段がひとつ上がったと感じています」

25年を越える活動を経て、まだ自らの可能性を信じ、それを実践する人間椅子。また一歩踏み出した彼らの作品を聞いて頂きたい。その圧倒的な世界観に、鳥肌を禁じ得ないはずだ。

なお今回記事で紹介した写真は、1月上旬に都内スタジオで行われたミュージックビデオの撮影風景である。気になるそのミュージックビデオは近日公開予定とのことだ。

また発売日の2月3日、ニコニコ生放送で特番と生配信が行われる。17時30分からPVを含めたレア映像の放送がなんと3時間! さらにその後にメンバー出演の生配信が2時間! コレを見れば今年の人間椅子が丸わかりだ。見逃すなよ!

参考リンク:ニューアルバム「怪談 そして死とエロス」リリース記念 帰ってきた人間椅子倶楽部 vol.04
Report:佐藤英典
Photo:Rocketnews24

▼2016年1月某日、都内某所で『恐怖の大王』のミュージックビデオ撮影
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▼広いスタジオで、12時間以上の撮影を敢行
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▼テイクごとに映像を確認するメンバー
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▼完成したミュージックビデオは近日公開予定。しばしお待ちあれ
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