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大都会で仕事をしていく以上、多くの人が避けて通れないのが、地獄のような「満員電車」である。朝のラッシュ。夜のラッシュ。会社に行く人だけではなく、通学のために満員電車に乗らざるをえない学生も多いだろう。まるで戦場に向かうがごとく。

みんなは気づいていないかもしれないが、連日の満員電車経験によって、知らず知らずのうちに我々は「生き残るための満員電車テクニック」を身につけている。そう、たとえば、今回ご紹介する9つの「満員電車サバイバル乗車テク」のように……。

その1:ロッククライミング

地獄のような満員電車において、つり革や手すりにつかまれるのは、天に選ばれし者のみである。その他大勢は、ほんのわずかな凹凸を “つまむ” ようにして体の安定を維持することになる。この乗車テクが、俗にいう「ロッククライミング」だ。rock

もちろん語源は、わずかな突起物をたよりに断崖絶壁をよじ登るロッククライマーのような姿から、だ。頼りになるのは指先だけ。全身全霊を指先に集中し、まるで自分が電車の車両と一体化するがごとく、“つまみ” だけでボディのブレをホールディング。プロ中のプロになると、わずかなネジの “頭” だけでもホールドできる。

その2:1フィンガー(ワンフィンガー)

上記のロッククライミングをしたいのに、つまめる突起物がまるでない! そんな時、無意識的に実践しているのが通称「1フィンガー」である。使用場所は、主にドア側。ドアの窓の “縁” を内側から指1本で上方向に押し、足は踏ん張る。tuppari

こうすることにより、自らの身体が「突っ張り棒」のような状態になり、いわば車両と一体化。「私は電車の柱です」的な心境になり、身も心も安定していく……というマシン一体型のテクニックだ。指先の指紋がおりなす「吸着力」もキモになってくる。

その3:望まない壁ドン

こちらも発生ポイントはドア側だ。ロッククライミングも1フィンガーもできない、ドア側2〜3列目の戦士たちが、うつむき気味に「す、すまん……」といった表情で繰り出してくる悲しみのテクニック、それが「望まない壁ドン」である。kabedon

彼らの足元がどうなっているのかは不明だが、とにかくバランスがとれないために、壁ドンをして体をホールド。しかし、やってる方もやられている方も、赤面しながらそっぽを向くのが無言のルール。でないとドキドキ発展してしまうからだ。

その4:マイケル・ジャクソン(世界の王)

一体なぜ、2〜3列目の彼らが「壁ドン」をしてしまうのかというと、ずばり「足元がヤバいことになっている」からに他ならない。まさしく足の踏み場もない状態になっていることは察しがつく。おそらくマイケル・ジャクソン的な “つま先立ち” だ。mj

両足マイケルなら、まだ安定がきく。しかし、マジのマジで「つま先1足ぶんしかスペースがない絶望的すぎる状態」になることも稀(まれ)にある。そんな時には、さらに難易度の高い「世界の王(貞治)」の1本足打法を繰り出すしかない。

その5:ガンジー(無抵抗主義)

その1から4までは、なんとか自らのバランスを保とうとする “自立型” のテクニック。しかし、それらを完全に放棄して、まるで海の中に漂う海藻のように、美空ひばりの『川の流れのように』のごとく、ひたすら身を委ねるテクが『ガンジー』である。ganji

徹底的に無抵抗主義。対抗しない。歯向かわない。自分は人間と人間の間に入っている「緩衝材」なのである……といった心境で、他からのパワーを脱力して流しまくる。ブルース・リーの「水のようになれ」を実践しているといっても過言ではないだろう。

その6:えりあし(007)

これは暇つぶしのテクニックだ。満員電車に乗っていると、他の人の「えりあし」が、嫌というほど目に入る。これらえりあしをつぶさに観察し、えりあしから “その人の人生” に思いを馳せると、地獄的な満員電車が少しだけ楽しくなってくる。007

また、合わせ技として「007(ゼロゼロセブン)」も有効だ。このテクニックは、人の後頭部と後頭部、その先にある後頭部と後頭部……の隙間から、奇跡的に “けっこう遠くの人の正面顔” が、幻想的に見られる現象。ファンタジーな雰囲気で。そんな奇跡を探していれば、目的地なんてアッという間に到着する。ぜひとも実践してほしい。

その7:お見合い

これはテクニックというより事故なのだが、乗車時における「ターン」のタイミングを見誤り、完全に正面同士で向い合ってしまう「お見合い」的な状況のことを言う。顔面と顔面の距離は約15センチ。あと少しでKissの距離。MajiでKoiする5秒前だ。omiai

一体なぜ、この絶望的とも言える「お見合い」が発生するのか。そのメカニズムは、主に「自分は向こう側のドア側の人間になる!」と決心している戦士が猪突猛進してくるからである。おそらく、目的地である駅のドアが “向こう側” なのだ。

本来ならば「こっちドア側の人間」なのに、彼らは自軍のドア側方向にターン(回転)することもなく、頑固なまでにズイズイと突進してくる。よって、誰も望んでいない交通事故的な正面衝突「お見合い」が発生してしまうのである。

その8:おれは直角

「お見合い封じ」ともいえる高等テクニックが、この『おれは直角』である。満員電車暦の長い年長者でないとサマにならない、いぶし銀の大技だ。武器は新聞で、かなり細かく折りたたんでいる。その「棒状になった新聞」を、器用にも “つり革と一緒に握りながら、首を直角90度に折り曲げて読み続ける” のだ。そこまでしてまで読みたい記事とは何なのか!? なお、大抵の場合、読んでいるのはスポーツ新聞である。orehatyokkaku

その9:警備員(もしくはスロース、鉄山靠とも)

その7の「お見合い」でも軽く触れたが、実は満員電車という世界は、「右側のドア軍」と「左側のドア軍」の対抗戦になっている。ちょうど車両の真ん中あたりが “最前戦” で、「両軍背中合わせ」な状態が望ましい。停戦ラインとも言えるだろう。migigunhidarigun

そんな “おしくらまんじゅう状態” の停戦ラインも、時に崩壊するときがある。想像以上の乗客が片方のドアから乗車してくるという状況だ。通称「ダムの決壊」。ムギュギュッと自軍の最前戦も押し切られ、敵軍の最前戦にいた戦士たちの背中までもが「ウワーッ!」と襲い掛かってくる。俗にいう「背中雪崩(せなかなだれ)」である。senakanadare

そんな時、無意識的に皆が繰り出しているテクニックこそが「警備員」だ。この世の秩序を、背中ひとつで守るのが警備員。背中と背中のぶつかりあい。ここで一致団結してふんばらないと、乗車率500%にまで膨れ上がる。事故を防ぐ意味でも、鉄壁の背中でスペースを確保しなければならない。自軍のために。自分のために……!keibiin

なお、警備員という呼び方以外にも、対戦格闘ゲーム『バーチャファイター』に登場するアキラの必殺技「鉄山靠(てつざんこう)」との呼び方もある。ほかには、名作映画『グーニーズ』において、圧倒的な背中パワーで脱出口を切り拓き、みんなを洞窟から逃してくれた「スロース」という呼び名もあるので覚えておこう。

それではみなさん、通勤通学がんばって!

執筆:GO羽鳥
イラスト: マミヤ狂四郎
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▼動画開始7秒で出てくる技が「鉄山靠(てつざんこう)」だ

▼この動画の0:22〜あたりも要チェック。満員電車で応用できるぞ

▼4:35〜が「スロース」だ

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