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差別用語や侮蔑用語、放送禁止用語といった言葉は山ほどある。日本語教師として、いや日本人として外国人に接するときに不適切な言葉を使わないのは当然のことだ。

だがしかし、日本では普通の言葉なのに別の国ではまったく違う意味でとられてしまう言葉も少なくない。私が日本語教師をしてきた中で一番ドン引きされた言葉が「我孫子(あびこ)」だった。

・授業中に教室がザワつく

それは中国の日本語学校で教えていたときのことだ。週に一度、教師が自由に使っていい時間が設けられており、日本のヒット曲を教えたり、落語を教えたりと各先生方の特色を生かした時間となっていた。

私は上級クラスの担当だったので、日本のニュースを説明するという授業を行っていた。ネットで日本のニュース動画を見せて、それについて意見を言ってもらうというものだ。生活に密着したニュースほど会話が発展したのでなかなかよく出来ていたと思う。

・学生がドン引き

そんなある日。地下鉄千代田線の乗り入れの話題を取り上げたときのことだ。車両の正面に書かれた地名が映し出された瞬間、教室がザワついた。事故映像を見せていたわけではないのに学生たちが引いているのだ。

何が起きたのかよくわからないまま学生のほうを見ると、一番日本語が上手な学生が恐る恐る手を上げてこう言った。

「先生、日本ではその文字をテレビで映していいのですか」と―。

・中国ではとんでもない意味になる地名

車両に書かれていた言葉は “我孫子” 。あびこだ。名字の方も多いだろう。私は「はい、我孫子は地名ですから。名字の人もいますよ」と説明した。すると学生はこう教えてくれた。

「それは言ってはいけない言葉です」。

ただならぬ雰囲気を察したので、このニュースで話題を広げるのはあきらめ、別のニュースに行くことにした。授業が終わったあとに学生に聞いたところ、“我孫子” は侮蔑用語であり、「マザーファッカー(mother-fucker)よりもひどい言葉だ」という人もいるレベルの言葉だったのだ。

それからは今まで以上に漢字表記、発音に気を遣うようにした。もしあなたが発したり書いたりした言葉で外国人の顔が曇ったら、その言葉はとんでもない言葉かもしれない。

執筆:ポンコツ
Photo:RocketNews24.