普段通りの日常が続いていれば、めったに頭が混乱することはない。だが、いきなり襲いかかる “非日常” を目の当たりにした時、人の頭は混乱する。「チャーハンを食べていたら、中からゴキブリが出てきた!」なんてのも非日常。混乱どころか卒倒だ。

だがしかし……ゴキブリなんて大物ではなく、たった1本の「毛」だけでも、場合によっては非日常の世界に吸い込まれるパワーを持っている。あれは数カ月前の取材の時。場所は東京・中野駅の南口だった──。

・漫画界の神と対面する直前

その日の取材先は『さいとう・プロダクション』。漫画家さいとう・たかを先生に謝罪しに行くのが目的だった。私(筆者)と、ライターのP.K.サンジュンは、リイド社の担当「Tさん」と落ち合うため、集合場所である中野駅の南口前で待機していた。

集合時間ピッタリ。改札口からスーツ姿のTさんが、満面の笑みと共に「おーい! マミヤさぁ〜ん!!」と手を振りながら走ってきた。「お疲れ様です!」「緊張しますねぇ!」「はじめまして、サンジュンです!」……。立ったまま、挨拶し合う我々3人。

──と、その時。リイド社のTさんが「あっ! そうそう! プレゼントを持ってきましたよっ!」と、嬉しそうにカバンの中をゴソゴソし始めた。ものすごいニコニコしている。私もサンジュンも、いったい何が出てくるのかな……とワクワクしていた。

T「はいこれ! リイド社のビスケットです! ゴルゴ13って書いてあるパターンもありますよ! ウフフ」

彼が手渡してくれたのは、思い切り「リイド社」と印刷されたビスケットだった。1枚1枚が袋に入っている、あたりさわりのないビスケットだ。私は「お〜、スゴイっすねぇ〜」と、あたりさわりのない返事をしつつ、ビスケットに目をやった。すると……

ペタリと1本、陰毛が張り付いていた。どっからどう見ても陰毛であり、心なしか「Tさん生まれ」というオーラすら漂っている。静電気の影響なのか、「ふわり」ではなく「ペタリ」と張り付いており、さりげなく振り回してもヤツは一向に剥がれない。

・笑顔+プレゼント+ビスケット+陰毛

その後も、Tさんはニコニコしながらビスケットについて語っているが、聞いている私は上の空。「笑顔+プレゼント+ビスケット」なら日常だが、そこに「+陰毛」が加わるだけで、一気に “非日常” の世界へ突入だ。当然のごとく、私の頭は混乱した。

……考えられる可能性は3通り。ひとつは、「わざと陰毛を貼り付けて、私のツッコミを待っている」。もしくは「1本の毛で動じるようでは、さいとう・たかを先生とは渡り合えない」というメッセージ。あるいは、「Tさんのカバンの中は陰毛だらけ」だ。

・陰毛1本で、“男” を見ている可能性

風で陰毛が飛ばされてくれないかと願いながら、さりげなく上下にビスケットを動かしつつ、しばしの間、私は深く考えた。将棋が強いTさんは、そういった心理戦に長けている。きっと私を試している。たった陰毛1本で、“男” を見ているに違いない……!

覚悟を決めた私は勇気を出し、ビスケット袋にへばりついたTさんの陰毛をチョイっとツマみ、たんぽぽの種が風に乗って飛んでいくがごとく、中野駅南口のロータリーに向けてリリースした。……元気でな! がんばれよ! おれたちもがんばるからさ!!

──そしてTさんの陰毛は、中野駅の風になった。覚悟を決めた我々3人は、ズンズンと『さいとう・プロダクション』へと歩を進めた。この先、何が起きても動じない。さいとう・たかを先生に謝罪する覚悟と勇気は、Tさんの陰毛が与えてくれたのである。

参考リンク:リイド社さいとう・プロダクション
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.

▼先陣きって『さいとう・プロダクション』に乗り込むTさん
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