イラスト仕事を本業とするイラストレーターはもちろん、普段はマンガを描いている漫画家にも「イラスト」という大切な仕事がある。1枚2枚なら余裕のヨッチャン。だが、あまりにも枚数の多いイラストを「ドカン!」と一気に頼まれたとき、イラスト長距離マラソンのペースをつかめていない漫画家は、ときにペース配分を間違える。

はたして、どんな状況になってしまうのか。「書籍用イラスト80枚の発注、シメキリは1カ月後」を例にして、とある漫画家の仕事っぷりを追ってみることにしよう。

その01:シメキリ1カ月前 → シメキリまでに1年間あるくらいの感覚。チョー余裕。
その02:シメキリ3週間前 → 1日2枚ずつ描いても20日で終わる計算。余裕すぎる。
その03:シメキリ2週間前(1) → 担当編集さんが焦り始めて「どんな感じですか?」メールしてくる。
その04:シメキリ2週間前(2) → 「順調です。大船に乗った気持ちでいてください!」と返事するが、まだ何も描いてない。
その05:シメキリ2週間前(3) → 80÷14=5.71428571429……という計算をし始める。
その06:シメキリ2週間前(4) → 深刻な顔して「そろそろヤバくなってきたな……」と声に出してつぶやいたりするが、何も描かず。
その07:シメキリ10日前(1) → 担当編集さんから「進捗どうですか?」とのメールが届く。
その08:シメキリ10日前(2) → 何も描いていないけど「大丈夫です。大船に乗った気持ちでいてください!」と返事する。
その09:シメキリ10日前(3) → 80÷10=8……1日8枚か。まあなんとかなるだろう、と空を見上げる。
その10:シメキリ9日前 → 80÷9=8.88888888889……か。もしも1日10枚ずつ描いたら、なんとシメキリ前日に仕上がるな。
その11:シメキリ8日前 → 80÷8=10。さあ、どんどん追い込まれてきたぞー! さーて。さーてヤバイぞぉ……と空を見上げる。
その12:シメキリ7日前(1) → 担当編集さんから「10枚ずつでもいいので出来上がったイラストから送って下さい」とのメールが届く。
その13:シメキリ7日前(2) → 「了解しました! 少々お待ちください!!」と返事するも、1枚も描いてないので添付しようがない。
その14:シメキリ7日前(3) → まてよ……今晩20枚描いて、明日20枚描いて……ってペースなら4日で終わるジャン! と皮算用し始める。
その15:シメキリ7日前(4) → いよいよ本気出し始めて一気に描こうとするが、結局3枚しか描けず。
その16:シメキリ6日前(1) → 担当編集さんから「昨日のメール、イラスト添付されてませんでした」とのメールが届く。
その17:シメキリ6日前(2) → もうゴマカシは通用しないので、正直にイラスト3枚添付して送信する。
その18:シメキリ6日前(3) → 担当編集さんから「シメキリまで残り77枚ですが間に合いますか?」とのメールが届く。
その19:シメキリ6日前(4) → 「大丈夫です。不沈艦に乗った気持ちでいてください!」と返事する。
その20:シメキリ5日前(1) → 77÷5=15.4か……。まあ、でも、今日から20枚ずつ描けば、シメキリ前に終わる計算。
その21:シメキリ5日前(2) → ていうか1ページ8コマあるマンガだと思えば9ページ描けばいいだけ。楽勝楽勝!
その22:シメキリ5日前(3) → 大勝負に向けて、士気を高めるために部屋の掃除をし始める。
その23:シメキリ5日前(4) → 大掃除になってしまい、疲れ果てて寝てしまう。
その24:シメキリ4日前(1) → 朝起きて、「夢だろこれ」とつぶやく。
その25:シメキリ4日前(2) → 77÷4=19.25……と、残り枚数÷日数の割り算が朝の日課になる。
その26:シメキリ4日前(3) → まあ、でも、今日から20枚ずつ描けば、シメキリ前に終わる計算。
その27:シメキリ3日前(1) → 「もう少しお待ちを……」という自分の寝言で起床。
その28:シメキリ3日前(2) → 77÷3=25.6666666667……もう「1日20枚ずつ」という夢見がちなプランも超越。
その29:シメキリ3日前(3) → 担当編集さんが不安になり「あと3日です! マジで大丈夫ですか!?」とメールしてくる。
その30:シメキリ3日前(4) → 「私を信じて下さい。タイタニックに乗った気持ちでいてください」と返事して落ち着かせる。
その31:シメキリ3日前(5) → いよいよ冷静にヤバイと感じ始め、「手塚先生、助けてください」と手塚先生降臨の儀式を始める。
その32:シメキリ3日前(6) → フルパワーで7枚描いたら眠気が降臨し爆睡。残り70枚。
その33:シメキリ2日前(1) → 70÷2=35という小学生でもできる計算を、何度も何度も計算機に打ち込む。
その34:シメキリ2日前(2) → 「1日35枚、絶対むりやん」とつぶやき、「アーッハッハ」と笑いながら空を見上げる。
その35:シメキリ2日前(3) → 担当編集さんから「デッドラインはシメキリ日の翌日の正午です。これに間に合わないと発売日に本が出せなくなるレベルです」と、いよいよ腹をくくった死の宣告メールが届くも、12時間延長されたことに活路を見出す。
その36:手塚先生降臨モードになるも、20枚描いて力尽きる。残り50枚。
その37:シメキリ1日前(1) → 「ウワーーーーーッ!!」という自分の寝言で起床。
その38:シメキリ1日前(2) → いちおう念のため「50÷1=50」という計算をし、無言で空を見上げる。
その39:デッドライン14時間前(1) → もうこの頃になると、「50÷14=3.57142857143」という計算になっている。
その40:デッドライン14時間前(2) → ついに手塚先生降臨モードが到来! 猛烈なスピードで描き始め、1時間で5枚仕上げる。
その41:デッドライン14時間前(3) → 1時間5枚ってことは、1枚あたり12分。ということは12×45=540分。9時間あれば仕上がる!! 余裕で間に合う!!
その42:デッドライン13時間前 → ……と油断していたら、やたらと時間かかる題材のイラストが連発し、1時間で3枚しか描けず。
その43:デッドライン12時間前 → 12時間で42枚。12時間で42枚……と、もう計算するのも嫌になる。
その44:デッドライン8時間前 → 平均1枚15分ペースで走り続けて残り26枚。「もうゴールテープは見えたようなもん」なので、15分だけ寝る。
その45:デッドライン6時間前 → ……と思ったら2時間寝ていて「ギャーーーーッ!」という自分の叫び声で起床。
その46:デッドライン2時間前 → 1秒もおろそかにしない集中力で残り11枚。頭の中にサライが鳴り響く武道館がハッキリと見える。
その47:デッドライン1時間前 → 残り9枚。60÷9=6.66666666667なので1枚あたり6分で仕上げないと間に合わない計算。
その48:デッドラインジャスト → 約束の時間ちょうどに78枚目まで完成。あと2枚! あと2枚ッ!!
その48:デッドライン+16分 → 少し遅れたが80枚すべて完成。担当編集さんより「大丈夫、間に合いました! お疲れ様でした!!」との返信。
その49:デッドラインから数時間後 → 担当編集さんから「60枚目が添付されていませんでした!」とのメール届くも、すぐ対応。
その50:デッドラインから13日後 → ピカピカの見本誌が届き、「もう出来上がったのか!! 本当にヤバかったんだな……」と猛反省するも、「でもイイ出来だな……」とご満悦。次からはもっと早めに取り掛かろうと決意する。

情報提供: マミヤ狂四郎
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.

▼こんな状況を経て完成したのがこの本。10月25日発売予定だ!