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電車の中で酒を飲む人をどう思うだろうか? 旅行で新幹線や特急に乗っているのは別として、在来線で、しかもラッシュ時に飲酒する人を、どうも私(筆者)は好きになれない。というか、煙たいと感じてしまう。どうしても「帰ってから飲めよ」と思ってしまうのだ。

そんな私が、心の底から「この人ならラッシュ時の電車で飲んでても許せる、仕方がない」と思ったことがある。なぜならそれが、“この上なく切ない酒の飲み方” だったからだ……。その話をしたい。

・JR常磐線とは

あれは、もう10年以上前。私が東京駅近くのオフィスに勤めていたときのことである。当時私は、千葉県のJR柏駅からJR東京駅まで通勤していた。土地勘のない人に説明すると、柏駅→上野駅→東京駅の順に乗り換える。片道は約45分、行きも帰りも混雑する電車に揺られていた。

上野から柏まではJR常磐線(じょうばんせん)を使う。常磐線は上野から千葉県に入り、茨城県・福島県・宮城県までをつなぐ路線である。私が常磐線を使うようになったのは、柏に引っ越した20歳を過ぎてからで、それまでは、千葉駅と東京都の三鷹駅をつなぐJR総武線を利用していた。

・飲んでいる人が異常に多い

常磐線を利用するようになってまず気付いたこと……。それは、『酒を飲んでいる人が異常に多いこと』であった。さすがに、朝の通勤時に飲んでいる人はいなかったが、退勤時に飲んでいる人はしょっちゅう見かけた。上野駅が始発であるせいなのか、なぜか異常に多いのだ。

いかにも飲んだくれ風のおっさん、現場帰りらしいガテン系、50代くらいのサラリーマン……。みんなビールやワンカップを堂々と飲んでいる。それに見慣れてからも、心の中では「帰ってから飲めよ、めんどくせー」と思っていた。そんなある日のこと……。

・30代半ばサラリーマン風の男性

私はいつものように上野駅で常磐線に乗り換えた。18時半すぎに上野を出発する水戸行きである。水戸とはもちろん、茨城県水戸市だ。混雑した車内……。目の前には、30代半ばのサラリーマン風の男性が座っている。この男性こそ、“この上なく切ない酒の飲み方” をしていた張本人である。

彼はできるだけ肩幅を狭めながら、かばんの中から350mlのビールとチューハイを取り出した。2本を重ね、ビールのふたをゆっくりと音も立てずに開ける。そして、なるべく顔を上げないようにしながら口をつけた。当然、のども鳴らさない。目だけを動かし周りを気にしている。肩幅も狭いままである。

「そんなに遠慮するなら帰ってから飲めよ」……と思っていたその時! 彼がとんでもない早技を繰り出した!! ジャケットの胸元をペロリとめくり、目にも止まらぬ早さでYシャツの胸ポケットに差してあった『サラミ』にかじりついたのだッ!! そしてまた目だけを動かし辺りの様子を伺っている……。

私は思った。彼は電車内で飲むことを恥じていると……。それでも、どうしても飲みたいのだ。終点の水戸までは1時間58分。水戸まで行かないにしろ、長時間電車に揺られるのだろう。駅から家だって近いとは限らない。彼は恥を忍び、断腸の思いで飲んでいるのだ……!

その日以来、彼を見るたびに、私は彼の目の前にポジショニングした。私がカーテンになろうと思ったのだ。ある日、彼の胸ポケットに、いつものサラミではなく、スティックタイプの干し貝柱が差さっていたことは今でも忘れない。今では常磐線も使わなくなってしまったが、あの人の胸ポケットには、今でもサラミが差さっているのだろうか……。

Report:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.