おそらく男性ならば誰しもが、「その男と出会ったのはつい数時間前なのに、なぜかそいつと2人でホテルの部屋に来ちまったぜ!」なんて経験、1度や2度はあるだろう。きっとあるはずだ。決して怪しいホテルではなく、いたって普通の旅の宿である。

お互いのことなんてよく知らない。なんだかよくわからない緊張感。そんなシチュエーションで相手の男は、私(筆者)に対してこう言ったのだ。「先にシャワーあびてこいよ……」と。すごいビビった。パニクった。あれは一体なんなのか。

・ジャイアンによく似たバングラデシュ人

どんな状況だったのかを軽く説明したい。まず、相手の男はバングラデシュ人。名前は忘れたが、英語は達者、体つきはガッチリ系だ。顔がドラえもんのジャイアンに似ていたので、以後「剛(タケシ)」とする。そしてホテルの場所は、バングラデシュ南東部「テクナフ」という小さな町の安宿だった。

・命を救ったタケシの励まし

このホテルに行き着くまでを、至極簡単に超マッハで説明しよう。まずは、バングラデシュ最南端の「セント・マーティン島」からバングラ本土までの乗り合いボートに乗船したところから話は始まる。しかし、出発してから30分ほどで……

航路(ベンガル湾)のど真ん中でボートがガス欠 → 立ち往生 → 水平線に見える船に対し乗客全員で猛烈アピールSOS → 無視される → 何度もSOS繰り返す → 完全なる漂流状態 → 太陽ジリジリで水も尽きる → 携帯もつながらない → もうマジで死ぬかも!?

……といった状況のなか、ペットボトルに残るわずかな水を私に分けてくれたのがバングラ人のタケシだった。彼は「絶対にオレたちは助かる。ここからは持久戦だ。日陰をつくって体力を温存するんだ!」みたいなことを乗客に説明し、皆を勇気づけていた。

・ギリギリで助かった!

結果としては、漂流から約5時間後……。“何度か我々のボートを見ていたが、気にせず運行し続けていた” というボートが近寄ってきて、「なんだ、そういうことか! 困ったときはお互い様だろ!!」と、笑顔でガソリンを売ってくれたのであった。

後にタケシに聞いてみると、彼らは我々のボートを何度か見ては、「やたらとハイテンションな乗客たちが叫びながら手を振っていたり、バングラデシュの国旗をブンブン振り回してて、なんだか楽しそうな船だなぁ……と思っていた」とのことである。

・タケシ「もうバスないよ?」

その後、無事に目的地「テクナフ」の街に到着したのだが、ここでタケシが不安なことを言い出した。「ゴウ、おまえ、バスで北上してコックスバザールの街に向かう予定だったよな? 残念だけど……まちがいなく、もうそのバスないぞ」と。えーーーッ!?

たしかに予定よりも5時間遅く到着した。そもそもバスが1日数本しかないような場所なのだから、現地人タケシの言うことは信用できる。さて、どうしようか……と悩んでいたら、タケシはこう切り出した。「しょうがねーなぁ……ついてこい!」と。

・行き着いたのはカビ臭くて薄暗い部屋

テクナフの街をテクテクとタケシと2人で歩き始めた。やがてタケシは薄汚い建物の中に入っていった。「こっちだ。心配ない」と手招きしているので入ってみると、タケシはカウンター越しに店員さんと会話中。なんだろう、ここはチケット売り場なのかな?

そしてタケシは「カモンカモン」と言いながら、とある部屋に私を案内した。そこにはボロボロのソファーと、シミ付きのベッド、トイレとシャワーまで備わっている、カビ臭くて薄暗い部屋だった。……って、ここ、ホテルじゃん! 安ホテルじゃん!!

・暑さのせいかタケシが壊れ始めた

ドキドキする私をよそに、タケシは少しハイになっていた。心なしかウキウキしている。「荷物、そこね」とか私に指示しつつも、あっち行ったりこっち行ったり、どうも落ち着かない様子。そしてタケシはソファーに腰掛け、テンション高めにこう言った。

「あっついわぁ! マジあっついわぁ!! あっつくねえのゴウ? でもエアコンないし(笑) 天井のファンしかないし(笑) 扇風機ボロいし(笑) ていうかゴウ、汗だくじゃん! シャツびしょびしょじゃん!? ……先にシャワーあびてこいよ」

タケシの顔は笑っているが、なぜか瞳は笑っていない。熱を帯びた、ジットリとしたギンギンの視線で、じっと私を見続けている。私の目的地はコックスバザールなのに、違うコックのバザールがオープンしそうな、ベリーデンジャラスなムードである。

どうしよう。マジでどうしよう。マジのマジでどうしよう。タケシは命の恩人だし、悪い人じゃないのは確かだ。でも、でも……でも俺……俺は……!! タッ……タケッ……タケシーーーーーーッ!! ということで、まさかのラストは次ページ(その2)で。

執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.