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2012年2月、東京・吉祥寺のあるライブハウスで私(記者)は初めてアイドルのライブというものを見た。情報番組でヘドバンアイドル「アリス十番」の存在を知り、事務所アリスプロジェクトに連絡したところ、直近のライブがこの吉祥寺での公演であることを教えてもらい、スタジオでのリハーサルを見学しライブを拝見したのである。

それから2年もの間、アリス十番をはじめとする同事務所に所属するタレントの活躍を追いかけてきた。常設劇場を持ち、夏フェスに参戦することになるとは、当時に彼女たちからはとても想像できなかった。そして、所属タレントと悲しい別れを迎える日がくるとは、私自身考えてもいなかった。

仮面女子・スチームガールズに所属する月宮かれんさんが不慮の事故により、他界していたことが公式に発表されたのである。

・2年の月日

2年という月日が長いのか、それとも短いのか、正直よくわからない。というのも、彼女たちはめまぐるしいスピードで急成長し、地下アイドルという言葉がすでにふさわしくないほど、急速に活躍の場を広げているからだ。たった2年とはいえ、その間に積み重ねた経験は時間の理屈を超えていたのではないかと思う。そうでなければ、劇場を持つことも夏フェスに出ることも、前座とはいえ日本武道館に出演することさえ難しかったはずである。

・渾身のエネルギーを

武道館に出演していた彼女たちは、大げさな表現ではなく、光り輝いていた。いつも公園で練習し、事務所で寝泊まりするメンバーも少なくなく、手持ちの現金も乏しかった彼女たちが、「今ここで!」と言わんばかりに、渾身のエネルギーをほとばしらせ、1万人の動員に存在を熱烈に主張する姿は本当に美しく格好良かった。彼女たちを知らない人たちにさえ、そのボルテージは伝わっていたはず。

・あいさつさえも覚束ない

そんな彼女たちを初めて吉祥寺で見たときに、「みんな子どもだな」と思ったのが正直な感想である。「これがアイドル?」とも思った。あまりにもその存在感は小さく健気で、か弱く見えたのだ。とくにかれんさんが当時所属していた「ほわいと☆milk」はステージデビューをはたしたばかり。そのときのメンバーはあいさつも覚束ないほど大人しかった。メンバーが部屋の片隅に寄り集まっていた姿を今でもよく覚えている。

・凌駕する存在に成長

ところが2012年10月にスチームガールズが結成されると、大人しかった彼女たちはアリス十番を凌駕するほどの活躍を見せ、またたく間に劇場動員数を伸ばしていったのだ。アリス十番の妹分ユニットではあったものの、一時は完全に立場が逆転しているような状況さえ生み出していた。そして、両ユニットで構成された「仮面女子」として武道館に出演したのである。

・柔らかくつなぐ絆

もしも人と人とが出会う「化学反応」と呼ばれるものがあるとすれば、当時のスチームガールズには確実にそれがあった。取り分けかれんさんの果たした役割は大きく、メンバーを柔らかくつなぐ絆のようなものを生み出していたのではないかと思う。そして、いまだにスチームガールズの代表曲としてライブで披露される『destiny』などの楽曲の作詞を担当していたのだ。彼女の持つ世界観は、完結したひとつの物語のなかにあり、そのすべてがこの先、表現されぬままなのは本当に残念なことだ。アリスプロジェクトの公式ページにはかれんさんの父親が、以下のようにメッセージを綴っている。

・かれんさんの父親のメッセージ

「かれんの父です。月宮かれんにつ いて、皆様にお知らせしなければならない事があります。月宮かれんは7月初旬、事故で亡くなりました。心の整理がつかず、皆様にご報告が遅れた事お詫び申し上げます。

月宮かれんが命を懸けて取り組んだ仮面女子:スチームガールズは彼女にとって青春の全てでした。これから月宮かれんは念願だった妖精となり何処までも何処までも羽ばたき続ける事でしょう」(アリスプロジェクト公式ページより引用)

・歌に遺した思い

かれんさんは父親のいう通り、遠く遠くへと旅立ってしまった。ファンだけでなくメンバーさえも癒し続けた彼女の笑顔が、再び見られないことを、悲しく思う。人は誰でも、「あなたがいるから頑張れる」、そう思う人が1人くらいいるはずだ。かれんさんは間違いなく、人にそう思われる人柄を携えていた。「かれんがいるから、一緒だから頑張れる」、そう思っていたメンバーも少なくないはずである。今はもう近くにはいない、遠くへと旅立った。だが、彼女は自身の歌のなかで、こう思いを遺している。

「あなたがツラくて 悲しみにくれていても 何百年 何万年 ボクがそばにいるよ」(スチームガールズ『destiny』より)

・いつまでも

自分のことを「ボク」と呼んでいた、彼女らしい一節。何処までも何処までも羽ばたく妖精は、きっと永久にメンバーの、そしてファンの皆さんの心のなかに。すぐそばで自由な翼を羽ばたかせ続けることだろう。立派になった仮面女子の、スチームガールズの姿を、どうかそこから見守っていて欲しい。いつまでも。

参照元:アリスプロジェクト
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24


▼2013年12月、日本武道館出演時の仮面女子メンバー
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▼武道館のステージで渾身のパフォーマンスを披露する、月宮かれんさん
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▼2014年9月8日、かれんさんの訃報が発表された日に、現スチームガールズメンバーはかれんさんに捧ぐ『destiny』を披露
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