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「世界のおいしいパン」というと、ヨーロッパのパン屋さんを思い浮かべがちだ。だが、2014年現在、世界一のパン職人を決める大会「マスター・ド・ラ・ブーランジュリー(ベーカリーマスターズ)」のパン部門で1位になったのは、日本人と台湾人だけというのは意外と知られていない。

コンペ用のパンは、通常、一般販売されないものだが、2010年第1回大会パン部門のチャンピオン呉宝春(ご・ほうしゅん)さんのお店では実際に大会で認められたパンを常時販売しているという。世界一……食べてみたい! というわけで、さっそく調べて行ってみたぞ!!

・世界一のパン職人・呉宝春さん

台湾のパン職人・呉宝春さんは、4年に一度パリで行われるベーカリーW杯こと「クープ・デュ・モンド・ド・ラ・ブーランジュリー」の2008年大会で、台湾代表チームとして2位に輝いた経歴を持つ。

さらに2010年、同大会で特に優秀と認められた個人のみが出場できる「第1回マスター・ド・ラ・ブーランジュリー」のパン部門で、他国の選手を圧倒し、堂々のグランプリを獲得! まさに世界が認めた文句のつけようがない世界一のパン職人なのだ。

・台湾・高雄のお店に行ってみた

そのパンを台湾の高雄市と台北市のお店で買えるという。ということで、早速、本店である高雄店に行ってみたぞ!

2008年に2位になった『酒醸桂圓麺包(リュウガンパン)』も、2010年に1位となった『荔枝玫瑰麵包(ライチ薔薇パン)』も、1個350台湾ドル(約1200円)と少々お高め。だが実物を見て納得してしまった。デカイ、とにかくデカイ!! 顔の1.5倍くらいある大きさだったのだ! 

・素朴で懐かしい『リュウガンパン』

大きさにも驚いたが、何より驚いたのはその味だ。まずは『酒醸桂圓麺包(リュウガンパン)』。柔らかめのパン風の生地に、台南特産のドライリュウガンとワイン、クルミが練りこまれている。

パリのパン屋さんにでも売っていそうな見た目だが、味はとっても「アジア」だ。少しクセのある強い甘酒のような香りに、餅のように適度な水分と重さがある生地。全体的に素朴で、「和菓子」とは異なるものの、小さな頃に食べたおやつのような味である。

それもそのはず。リュウガンともち米で作られた「桂圓糯米糕」という伝統的なお菓子をモチーフに作られたパンなのだ。アジアンスイーツが好きな人なら、ハマること間違いなしの味である。

・生花のように華やかな香りの『ライチ薔薇パン』

一方、2010年に1位となったパン『荔枝玫瑰麵包(ライチ薔薇パン)』は、ソフトなフランスパンのような生地に、バラの花、ライチ、ライチ酒、クルミが練りこまれている。「クセ」という点では、リュウガンパンよりもインパクトは少ないかもしれないが、別の意味で特徴的だ。

食べると芳醇なライチ酒の香りのあとに、バラの香りがフワ~っと香るのである! 実際に台湾産のバラの花びらが使われているのだが、焼いているにもかかわらず、どうしてこんな生花のような香りがするのだろう?

ひとくち食べるごとに、香ばしい小麦とクルミ、そしてバラの優雅な香りに包まれてゆき、なんとも幸せな気分になる。腹を満たすだけでなく、心まで満たしてくれる、これが世界一のパンなのだ!

・接客も神すぎて泣いた……

呉宝春さんのお店のパンはハッキリ言って高い。しかし、店に入るだけでも行列必至、人気の「リュウガンパン」や「ライチ薔薇パン」にいたっては、朝から並ぶか予約をしないとまず買えないらしい。

実際にお店に行ってみて、その人気の理由がよーくわかった。接客が素晴らしいのだ! ひっきりなしに客が入る店はめちゃくちゃ忙しいはずのに、そんな素振りは全く見せない。いつもニコニコして、目が合うとフルパワーの笑顔を返してくれる。愛想がいいなんてレベルじゃないぞ!

また、お客さんがトレイを落としてしまったら、コンマ1秒くらいの勢いで新しいものを差し出したり、手持ち無沙汰に並んでいる行列に試食のパンを配りに行ったり……ささいなことだが、忙しい店内でも客の動きをよく観察していると感じた。行き届いていながらさりげない対応、実に居心地がいい。

・神接客は呉宝春さんの感動体験から

呉宝春さんも台湾メディアのインタビューで「心からのおもてなし」を大切にしていると語っている。かつて日本で受けた細やかな接客に感銘を受け、そこから学んだという話も。派手なサービスではなく、細やかな心配りを心がけていく……そんな呉さんの心がスタッフにも伝わっているようだ。「世界一のパン職人」の店は、パンだけでなく接客も一流だったのだ。

・日本から予約がしたいんだけど……

わざわざ台湾に行ってパンを食べるとは少し変な感じもするかもしれないが、呉宝春さんのお店のパンも心も世界にここしかないものだ。高雄のほかに台北にもお店があるので、是非訪ねてみてほしい。しかし旅行中に行列はちょっと……という人のために、店長さんに日本からの予約の仕方を教えてもらったぞ。次の記事で、追って紹介したい!!

・今回ご紹介した飲食店の詳細データ

店名 吳寶春麥方店
住所 高雄市苓雅區四維三路19號
時間 10:00~21:30

参考リンク:LESAFFRE(フランス語)、YouTube

Report:沢井メグ
Photo:Rocketnews24

▼こちらが高雄の呉宝春さんのお店
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▼パンのことは台湾語でも「パン」と呼ぶそうだ
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▼入るのにも行列だ
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▼並んでいると試食のパンを配ってくれる
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▼中も人がいっぱい!
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▼他の商品もおいしそうだ
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▼中でも試食用のパンをもらってしまった! 試食だけでお腹いっぱいになるレベル
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▼そしてこちらが、世界が認めた『リュウガンパン』(左)と『ライチ薔薇パン』(右)だ
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▼iPhone4sと並べてみた。デカッッ!!!!
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▼人の顔より大きいぞ
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▼まずは2010年の「ベーカリーマスターズ」で世界一となった『ライチ薔薇パン』を食べてみた!
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▼表面にライチのマークだ
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▼切ってみると、生花のような甘酸っぱいバラの香りがふわ~んと香ってくる
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▼ソフトフランスパンのような歯ざわりで、とっても上品!! バラの香りとライチの味がなんだかロマンチックだ
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▼こちらが2008年にベーカリーW杯で2位になった『リュウガンパン』
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▼甘酒のような芳醇な香りがイイ! 目を閉じるとそこは台湾だ
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▼心からのおもてなしを大切にしていると語る呉さん。日本の接客に感動したという秘話も

▼こちらは呉宝春さん本人出演のドキュメンタリー、無学の貧しい少年が一流のパン職人になるまでの過程が紹介されている(中国語)

▼呉宝春さんの半生は、映画化もされている。なんと小林幸子さんが日本研修時代の師として出演しているぞ