「この曲を聞くと、◯◯を思い出す」といった感じで、曲と場所や、曲と人、そして曲とニオイなどを結びつけて記憶していることは多いが、何かを食べて思い出すこともよくある話。私(筆者)の場合はカツサンドだ。

どんなカツサンドを食べた時でも、必ず思い出す人物がいる。それは今から約20年ほど前、私が1人でプロレスを見に行った時、後楽園ホールの2階バルコニーで出会った「健介カットの熱狂的FMWファンの青年」である。

・ひとりバルコ

当時の私は中学生。まわりに熱狂的なプロレスファンがいなかったため、よく1人でプロレスを見に行っていた。金がないので立ち見席。お気に入りだったのは、後楽園ホールの2階バルコニー席だった。私の中では「ひとりバルコ」と呼んでいた。

その日の興行は、大仁田厚ひきいるFMW。本当はライバル団体「W★ING」の方が好きだったのだが、なんとなく敷居が高い雰囲気もあったし、「ひとり外出」もドッキドキな中学生にとって、FMWは行きやすいプロレス団体だったのだ。

・バルコニーの場所取りは先手必勝の諸行無常

ひとりバルコは、孤独な戦いを強いられる。立ち見の席(場所)の確保から戦いは始まっている。できればバルコニーの手すりを握りながら観戦できる「最前列」を死守したいが、あいにく先客で埋まっていた。私のポジションは2列目である。

このまま誰も来なければ楽なのだが、私の後ろにも、新たな立ち見客が立っている。もしも今トイレに行ったら、私の死守する2列目も、後ろの「3列目の客」に取られてしまうことだろう。よってオシッコは限界まで我慢する。ウンコもだ。

・前にいた青年が「ここ、とっといてくれる?」

私の目の前にいる長髪の青年は、余裕な顔してバルコの手すりに覆いかぶさっている。ラクそうだ。いいなぁ……と、その時だった! 突如、長髪の青年がグルリと振り向き、「あのさ、ちょっとさ、ここ、とっといてくれる?」と話しかけてきたのだ。

色白で、ヤセ型。長髪かと思ったら、サイドは思い切り刈り上げている。俗にいう「健介カット」であり、稲妻の「Zマーク」のソリコミが入っていた。すさまじく気合いが入っているヘアスタイル。一瞬ビビるも、私は「ハイ!」と承諾した。

・場所を死守していた私のために詰めてくれた

ウンコでもしているのか、なかなか健介カットのケンスケ(仮)が帰ってこない。当の私はウンコを我慢しているのに、なぜ他人の場所確保をしているんだ俺は……と、自分の弱さを恨むこと約10分。やっとケンスケが帰ってきた。

人をかきわけ、「ごめん、ありがとう」と言いながら、私の横に滑りこんできたケンスケ。これにて私の任務は完了……とばかりに「では、私はまた後ろに……」と返事すると、彼は「何言ってんだよ。横に来なよ」と言い、場所を詰めてくれたのだった。

・ふいに登場した後楽園ホールのカツサンド

さらに! 「場所を取っておいてくれたお礼だよ。さあ、一緒に食べよう」と言いながら、私に『後楽園ホールのカツサンド』を渡してきたのだ!! あとから聞いたが、ケンスケが遅かったのはウンコではなく、カツサンド行列のためだったという。

あまりの展開に、私の肛門もビックリしたのか、ウンコの気配もふっとんだ。一緒にカツサンドを食べながら、FMWの試合に声援を送りつつ、ちょいちょい小声で話をした。そして彼はその後、カツサンドに次ぐ友情を私に手渡してきたのだ。彼が用意した次なるモノは、次ページ(その2)に掲載じゃ!!

執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.