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いま、日本と台湾で感動を巻き起こしている映画がある。それは、先日公開されたばかりの台湾映画『KANO』だ。

・3つの民族が1つの目標に向かって奮闘した「嘉義農林学校・野球部」

KANOこと嘉農は、正式名称を嘉義農林学校という。日本統治下の1931年に台湾代表として甲子園に出場、準優勝を果たしたチームだ。その歴史は、過去の記事でも紹介しているが、映画も事実に基づいたストーリーである。

それまで1勝もしたことがなかった弱小チームが、日本人監督に率いられ、夢の甲子園に向かっていく物語だ。球児たちの熱い戦いが、そして日本人、中華系台湾人、台湾原住民と3つの民族が1つの目標に向かって奮闘する姿に多くの人が胸を熱くさせているのだ!

・台湾で空前の大ヒット

『KANO』は3時間5分という超大作である。2014年3月7日、海外初公開となった大阪アジアン映画祭で、プロデューサーの魏徳聖(ぎ・とくせい)氏が「3時間5分と長いですがトイレに行かせないよう飽きさせない工夫を一生懸命しています」というストーリー展開。

忠実に再現されたという当時の甲子園、永瀬正敏さん演じる厳しさと優しさを併せ持つ近藤兵太郎監督、演技の経験がないという生徒役の少年たちの生き生きとした姿など見所も多い。

現地台湾では公開より10日足らずで興行収入1億2000万台湾ドル(約4億1000万円)を突破。この時点で台湾における歴代台湾映画興行収入トップ10に入る勢いと、かなり好調な出だしである。また、大阪アジアン映画祭でもチケットは瞬殺。上映終了後にはスタンディングオベーションが起こり、いつまでも拍手が鳴り止まなかった。

・一方で「植民地時代を美化している」という批判も

国や文化関係なく、多くの人が感動しているわけだが、台湾では「植民地時代を美化している」という批判の声もあがっているという。また、日本でも「なぜ植民地時代の美談が台湾人に喜ばれているのか?」という疑問の声も見受けられる。確かに、単なる美談の紹介ならそんな疑問もわくが、劇中のあるシーンを見ればそれも解決するかもしれない。

・対戦校キャプテンの視点

それは、映画の終盤で嘉義農林が準優勝した大会から13年後の1944年に日本軍の将校が嘉義に降り立つシーンだ。彼は嘉農と甲子園で対戦し敗北を喫した札幌商業学校のエース「錠者(じょうしゃ)博美」。嘉農のことが忘れられず、嘉義の街に来たという錠者の目に一瞬、日本軍属として戦った「高砂義勇隊」らしき原住民の姿が映る。

また、嘉義農林の練習場で将校が野球少年に戻りかつての英雄に敬意を示すシーンも見逃せない。「錠者博美」は嘉農のメンバーと同様に実在の人物だが、映画のように嘉義に行ったかどうかは不明だ。このシーンが入ることにより、ただの「エエ話」ではなく、脈々と続く歴史のなかに確かに存在したのだと感じることができる。

・日本統治時代を描き続ける魏徳聖氏

『KANO』のプロデューサーを務めた魏徳聖氏は2008年に戦後の引き上げ時に日本人から台湾人の恋人にあてた手紙を主軸にすえた『海角七号』、2011年に1930年に起きた台湾統治史最大の抗日蜂起事件を描いた映画『セデック・バレ』を発表している。

一部で「反日映画か否か」という議論まで起こった『セデック・バレ』と、「植民地時代を美化か」と言われる『KANO』では、一見、矛盾があるように見える。しかし1930年、31年と確かに台湾で起きた出来事だ。なぜ、魏徳聖氏が様々な側面からこの時代を描き続けるのかは、3部作を見ればわかることかもしれないが、nippon.comで魏徳聖氏のインタビューを見れば彼がこの時代を描き続ける理由がより深く理解できるかもしれない。

日本統治時代は、時には愛憎相半ばし、良し悪しの基準だけでは解釈できない面が多々あった時代です。それゆえに、その時代に生きた一人ひとりの立場の違いに絶えず思いを寄せて、あれかこれかという決めつけに陥らないように心がけました。

『海角七号』、『セデック・バレ』、そして『KANO』の3部作は、日本統治時代における「心残り」や「恨み」、「栄光」など、複雑な心情を描いた作品ですが、いずれも自分たちのアイデンティティを問うているのです。(nippon.comより引用)

魏徳聖氏による3部作は、同時に歴史は一面的に捉えることはできないというのを暗に示しているようにも思われる。東日本大震災の支援を契機に台湾への関心が高まった今こそ、日本人も見ておきたい映画であると言える。なお、『KANO』の日本での一般公開は2015年予定だ。

参考リンク:大阪アジアン映画祭nippon.com中時新聞YouTube
執筆:沢井メグ
Photo:Rocketnews24.

▼予告編だけで泣けると話題になった映画『KANO』のトレーラー

▼大阪アジアン映画祭での舞台挨拶
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▼こちらが魏徳聖プロデューサー、今回は制作総指揮にあたった
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▼馬志翔監督は日本語で「まいど!」と挨拶。俳優出身で、長編映画は初監督となるそうだ
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▼「僕の誇りがここに立っています」と、プロデューサー、監督、生徒役の子供たちを紹介する主演の永瀬正敏さん
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▼「自分が出ていながら、この映画の大ファンになりました」という坂井真紀さん
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▼魏プロデューサー、馬監督、日本語の部分のリライトを担当した林海象氏とキャストの皆さん
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▼上映終了後、会場の拍手に答えるようにキャストが再登場
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▼終了後に抱き合う魏プロデューサーと永瀬さん
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▼大阪アジアン映画祭は3月16日まで! ほかにも様々なアジア映画が上映されている
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