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先日17日に日本野球機構(NPB)と米大リーグ機構(MLB)の間で協議が続いていた「新ポスティングシステム」が成立した。入札から譲渡金という方式になり、田中将大投手は新制度を利用してのメジャー挑戦を希望することを伝え、楽天はその回答を保留した。

先月から始まったドタバタ劇からの結末は、果たしてどのようになるのか。なぜこのようになってしまったかをひとつずつ紐解いていくと、MLBの思惑とNPBの意思の弱さが見えてくる。まずは「ポスティングシステム」から説明していきたい。

・従来のポスティング

これまでのシステムは大リーグ球団が入札額を提示し、最高入札額の球団が選手と交渉する権利を独占できた。いわば「マグロのセリ」のようなもので、金額ですべてが決まっていた。

・新ポスティング

それに対して新しく成立したシステムは譲渡金を決める方式だ。2000万ドル(約20億6000万円)を上限とし、支払う意思のある球団と交渉が可能となる。それでいいのではないかと思うかもしれないが、今回の対象が田中投手というのがミソだ。

当初、田中投手はダルビッシュ有投手の移籍金・約5000万ドルをしのぐとも言われた金額が予想されていただけに、2000万ドルはあまりに安すぎる。そう、田中投手ほどの実力であれば限度額に届くのは当然のことなのだ。

・楽天の答え

それでは田中投手の所属している楽天は容認するのか。答えは「NO」だろう。メジャーへの挑戦を表明した田中投手を後押ししたい気持ちがあるのは違いないが、従来の制度を変更してまで作った新ポスティングシステムに乗る必要もないからだ。

楽天の三木谷オーナーが「日本のプロ野球は大リーグの育成システムやファームではない」と語っていたが、まさにその通りである。この件を容認してしまうと、これからメジャーリーグへ挑戦する選手にまで影響が及んでしまう。

そのような条件でエースの田中投手を放出するのは、楽天も納得いかないはずだ。仮に田中投手と球団で密約があったとしても、状況は変わっているのだから球団が首を縦に振らないのもうなずける。

・腹黒いMLBの思惑

もちろん「夢を叶えるために送り出してやれ」という意見もある。しかし、この制度で田中投手を送り出すと、今後メジャー挑戦をする選手が出てきた時に日本球界にとって不利となってしまう。

2000万ドルで提示するも米球団が興味を示さず、残留せざるを得ない状況も出てくる訳だ。吟味されるだけされて、足下を見られる交渉がこれからも続くということになる。「新ポスティング」とは名ばかりで、実際は「品定めして安値で買う」というMLBの思惑なのだ。

・意思の弱いNPB

問題はMLBのシステム変更とそれにいいように丸めこまれたNPBだ。新制度はおろかポスティング自体の撤廃をちらつかされると、そこからは常に後手に回る展開。結果的に悪者を作る展開にしてしまい、合意したのが現状だ。そして騒動の被害者となったのは田中投手と楽天である。

NPBには「日本球界の至宝である田中投手を快く送り出す」といった気概はなかったのだろうか。あまりにアッサリと引き下がった印象で、日本球界の意地を見れなかったように感じる。

・苦しい選択を迫られた楽天

とはいえ、楽天の立場は苦しいままに変わりはない。容認のするしないにかかわらず、必ず責められることになるからだ。田中投手の夢を壊した、はたまた移籍金に納得がいかないから蹴った……といったようにだ。

あくまでポスティングシステムは球団が持つ権利で選手自身のものではない。それならば、楽天には球団の利益と今後の日本野球界を守る決断をして欲しいという気持ちが出てくる。

どのような結論になったとしても、田中投手、楽天ともに非はない。今回の騒動が、よりよい移籍環境を作っていく可能性だってある。先を見据え、前を向いて進んでもらいたい。

執筆:原田たかし
Photo:RocketNews24.