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たった数十秒のテレビCMの裏側には、その数百倍の時間をかけた様々なドラマがあるものだ。たとえば、なんてことはない「CGによる合体ロボットのテレビCM」でも、映像が完成するまでには想像を絶する苦労と “やりとり” がされているのである。

ということで今回ご紹介したいのは、2001年ごろに衛星放送の「スカパー!」で放送されていたテレビCM。画面いっぱいに暴れまわるのは、CG による合体ロボット。実はこのロボットをデザインしたのは……まさかまさかの、あのプロ漫画家である!!

・あの漫画家がデザインしていた!

2001年の冬ごろに「スカパー!」が制作したのは、『映画&スポーツ! プラチナセット』なるCMだ。そして、このCMに出てくる合体ロボットをデザインしたのは……なんと! なんと! ……マミヤ狂四郎氏だ。どうかガッカリしないでほしい。

・なぜマミヤが起用されたのか

一体なぜ、ロボットとは縁もゆかりもない、さらに言えば “マンガの中でも定規をほとんど使わないヘロヘロ線を描く” フリーハンド漫画家に、こんな仕事が舞い込んできたのか。流れを簡潔に表すならば、以下のとおりである。

制作会社がデザイナーにロボットデザインを発注 → マジメすぎて面白みに欠ける → ボツ → 締め切り迫ってディレクター焦る → 「知り合いに合体ロボットを描けるデザイナーやイラストレーターがいたら声かけろ! 締め切りは明日!」と部下に通達

こんな感じで、マミヤ狂四郎にも話が舞い込み、落書き感覚でデザイン案をFAX送信。そのラフ案は、CG で作るという前提を完全無視したシロモノである。他にも様々なデザイン案が集まったらしいのだが、意味不明なパンチの強さで「マミヤ起用」と判断したらしい。

・綿密なミーティング

しかし、マミヤのデザイン案は、あまりにも複雑すぎて期日内に CG化することは不可能。「もっとシンプルに……」「バーチャファイターみたいなポリゴンっぽい感じですか?」「そ、そんな感じで……」的なやりとりを経て、翌日には第二案が完成する。

出来上がったのは、やたらと頭の長いロボットだったが、ディレクターは「これでいこう!」と即断。そのまま CG制作会社に即発注。しかし、ここで問題が発生。CG制作会社から「どのように動いたら合体するのかが分からない!」と来たのである。

・とにかく時間がない!

ところが、漫画家マミヤは「どうやってCG制作会社にロボットの可動部分を指示したらいいのか」が分からない。正しい指示書の書き方が分かららない! 調べる時間も、もうない! よって、マミヤ氏は、らくがき帳にボールペンで「こうやって動く!」的なマンガを執筆。1ページできるごとにFAX送信。

「よし合体だ!」「おう相棒!」。こう飛んで、こう合体するのだ! シュイイイン……ガシッ! ガッシャンコン! 合体の掛け声は「文武両道ドッキンガー!」だ! と、20ページくらいに及ぶラクガキ漫画で、その「動き」を伝えたのであった。なお、この漫画は残念ながら紛失したもよう。制作会社が持っているという情報もある。

・1週間後には完成

ともあれ、上記のような体当たりのやりとりを経て、約1週間後にはフルCG のCMが完成していた。あんなにラフなデザイン案で、ここまで仕上げるとは CG制作会社スゲエ! といった感じだ。一番のファインプレーは、この CG制作会社といっても過言ではない。

たった15秒、たった30秒の CM の中にも、様々な苦労とドラマがある。ちなみに、この完成CMを見たとき、マミヤ氏は想像以上のクオリティに深く感動すると同時に「俺のヘロヘロな絵が……ちゃんとした CG になって動いている!」という事実にも感動し、その場でポロポロと嬉し涙を流したという。

参考リンク:YouTube
ロボットデザイン: マミヤ狂四郎

▼こちらが1発目のデザイン案
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▼CGであることを完全無視して描いているデザインだ
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▼その後、「どのように動くのか」を考えながら第二案
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▼マミヤ氏の頭の中には、何がどう動くのかはイメージされている
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▼合体するとこうなる! そして……
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▼出来上がったCMがこちら! 『文武両道ドッキンガー(2001年) 』