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JR北海道で保線に関するトラブルが次々と明るみになっている。レール異常を放置したことにより、脱線事故が発生し、管理体制の杜撰(ずさん)さが浮き彫りになっている状況だ。

・JR北海道の管理体制

その原因について、予算面の問題や労組の対立などが指摘されているのだが、利用客からすれば安全・安心の確保を最優先して欲しいはず。記者(私)は約20年前に保線に従事した経験がある。その観点からすれば、JR北海道の管理体制は杜撰を通り越して「危険」と言っていい。経験者から見ると考えられないレベルである。

・線路はミリ単位で管理されている

記者は20歳から約4年間、JR西日本山陰本線および境線の保線に関わっていた。とはいっても、保線業者の孫請けの小さな会社であり、線路で作業する作業員である。保線の仕事に就くに当たっては、講習を受けなければならなかった。そこで、線路がミリ単位で管理されていることを知る。

・常に線路幅を調整

線路には車両を安全に運行するための、基準値を記載した詳細な見取り図がある。たとえば、ある箇所のカーブは線路幅が○○ミリに保たれてなければいけないとか、線路を直線で見た場合の高さは○○ミリでなければいけないなど。車両の車輪は内側に向かってこう配がついており、線路幅が広くなりすぎると脱輪する恐れがある。そのため、常に定期的に線路の幅を調整しなければいけないのだ。

・保線作業はほとんんど人の手による

問題はその作業。おそらく保線業務はその昔からやり方がそれほど変わっていないだろう。記者が従事していた当時は、作業のほとんどを手作業でやっていた。巨大な鉄道バールと、「雁爪(ガンヅメ)」と呼ばれるバラストをかくための鍬(くわ)。それから、枕木をつかむハサミ(名称を忘れてしまった)など。それらを使って人の手で行われる。

・機械ではできないこと

1時間に1本程度しか車両が通らない、山間の線路であったためにそのような作業の仕方だったのかもしれない。しかし、ミリ単位で線路の高さや幅を調整するのには機械ではできないことも多かった。また運行中であっても作業が行われていたため、重機を入れると列車が来たときに避難できない。少数の人手で速やかに作業するのが常であった。

・鉄道バールを持って延々歩く

線路は丈夫だが熱に弱く、夏季になると鋼の温度が上昇して、放置していても歪(ゆが)む。それを鉄道バール(重量約10キロ)で、人力で歪みをなおすのである。線路のある箇所に5~6名がバールを突き刺し、「せーの!」という掛け声と共に、線路を押す。当然、そう簡単に歪みがなおるものではない。また、一カ所歪みをなおすとほかの箇所が歪む。歪みが取れるまで延々バールを背負って線路を歩くことになる。

・楽な作業ではない

はっきり言って保線作業は楽ではない。普通の枕木でも60キロあり、コンクリート製のものになると200キロ近くになる。これを線路内で手作業で交換するのは至難のわざだ。体力だけがものを言う仕事であり、人材不足が深刻になっていることも頷ける。だが、そういう影の力があってこそ、人が安全に電車を利用できるのではないだろうか。

・携わる人の責務は大きい

振り返ると、繰り返し保線業務に関する講習などが行われ、現場でも監督に随分口うるさく指図を受けていた。そのおかげで、従事した4年の間に区間で事故は起きていない。また我々が、作業によって電車を止めるという事態もなかった。地味で辛い仕事だが、携わる人の責務は大きいはずである。

北海道では腐った枕木が放置され、犬釘(線路を枕木に止める釘)が手で抜けるような場所があったそうだ。その上を何トンもの重量がある列車が走り続けていたらどうなるだろうか? いつか大変な事態を招くに違いない。貨物列車の脱線事故があった箇所では、補修基準の2倍もの広さに、レール幅が開いていたそうだ。それなのに放置するとはちょっと考え難いことである。

おそらく他のJR各社でも、そのような状況を見過ごすはずがない。どうして放ったらかしになってしまったのか、気になるところではあるが原因と責任の追及は後にして、とにかく問題個所をいち早く安全な状況にすべきではないだろうか。

執筆:やや津田さん(佐藤)
Photo:Rocketnews24