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「性同一性障害」という言葉を聞いた事はあるでしょうか? この障害を持って生きる人にとって、「性別」や「性差」とはいかなるものなのでしょう。今回はとある女性へのインタビューをお伝えしたいと思います。

・MTFとFTM
性同一性障害には、二つの分類があります。身体と心の性別が一致していない状態を指し、身体が「男性」で心が「女性」をMTF(Male-To-Female)と言い、身体が「女性」で心が「男性」の人をFTM(Female–to-male)と言います。

「障害」と言われるのには理由があり、心と身体の性別が異なるため、生活上のあらゆる状況においてその性別(生来の性別)で扱われることに、精神的な苦痛を受けることが多いためです。また自らの身体に嫌悪感や違和感を抱くという人もいます。

・性別への違和感
たとえば、男性の身体に女性の心を持っている人(MTF)が、女性として生活したいと思った場合、身分証明書や戸籍などで絶えずストレスを受けることになります。この対処として、ある人は性転換手術を行って、戸籍を自分本来の性別に合わせたり、またある人は生まれたままの身体で女性として生活することで良しとするといった具合に、その実情は人によって様々です。

彼・彼女たちは、本来の性別で生活をすることを強く望み、社会にごく自然に馴染んでいるので、自身の性別について人前であえて語るようなことはあまりありません。そこで今回は、MTFの女性、桃紗希(ももさき)あやさんに生い立ちから初恋、女性として生活をすることまで、たくさん話を聞かせてもらいました。自分らしさを貫くための、彼女の覚悟とは?

質問1:現在のお仕事は?
アパレルの内勤として開発をしてるよ。ちなみに工業高校のデザイン科出身。

質問2:今は女性として生活をしているあやさんが、初めて好きになった人は?
14歳くらいの時に学校の男の子を好きになったんだけど、その時は自分に何が起こったのか理解できなかった。当時は情報が何もなくて、ゲイやMTFという言葉を何も知らなかったから、自分がおかしくなったのかと思ってた。彼のことは友達として大好きなんだ、思い込んでたな。男の子と一緒にいることに安心感を覚えていたから、その時は特に行動に移すことなく終わっちゃった。

質問3:男として、女性と接したことはありますか?
女の子に告白されることは、たまにあったかな。高校生のとき、普通の人と思われるために女の子と付き合ってみたり。でも、Hをしようとした時、全然だめで。相手に悪いな、と思って、別れちゃった。

質問4:ホストをしていた時期があると、お聞きしましたことがあります。その時はどんな心境で?
うん、昼の仕事が終わってから掛け持ちしてた。なんでやろうと思ったかって、お店の男の子がかっこよかったから(笑)。私ジャニーズ系が好きで、すごく憧れていたから、近くにいたかったんだ。今思えば恋愛感情なんだけど、そのときはまだ自分のことがはっきりとわかっていなかった。女の子でもアイドルになりたい願望とかがあるから、自分は普通だと思ってたかな。

質問5:ある意味理想の職場ですね(笑)。そんなホスト稼業はどうでしたか?
女の子の考えていることがわかるから、成績は良かったな。自分の理想の男性を演じてみたりして。自分だけ見てくれて、たまにツンとして、ちょっと追いかけてきて、っていう。少女漫画の男主人公のようなキャラで。あとは女の子は共感を求めるから、「それ、わかるー!」っていう感覚を大事にして、友達のように接する時もあったり。元々わたし、女の子っぽいことやロマンチックなものが好きだから、女の子と一緒にいて戸惑うようなことはなかったな。

質問6:イケメンが大勢いるなかで働いて、出会いはありましたか?
同僚のなかにタッキーに似てる子がいたの! アフターに一緒にしたり、ご飯を食べに行ったりして、二人でゲームして遊ぶくらいに親しくなった。友達同士でワイワイやるよりも二人でいる方が楽しかったな。ある日、二人で歩いてるときに仲の良いすてきなカップルを見てね。それにすっごい憧れて、彼とそういうふうになりたいなって思った。わたしとずっと一緒にいたら、彼は好きになってくれるかなって期待もしたな。

質問7:その彼とは、その後どうなったんでしょう……?
一緒に遊ぶようになって何カ月かして、我慢できなくなっちゃって、ふざけて「大好き!」って言ったら相手がキョトンとしちゃってさ。ヤバい! と思ったんだけど、そこで「だって好きなんだもん」ってまた言ったら、相手に引かれて……。ああ、やっちゃったなって。彼とはそれをきっかけに疎遠になっちゃった。「そういうふうに見られていたら、友達としても見られない」って言われてすごく悲しかった。だけど、自分の気持ちに嘘はつけなかったから、後悔はしていないよ。

質問8:女性として生活を始めたのは、いつですか?
10代の終わりには、自分がおかしいんだと気がついてね。一人暮らしをきっかけに、女として生活しだしたんだ。それでいろんな事がしっかり回るようになったから、「ああ、私はコッチ(MTF)だったんだって思った。会社では少しずつ少しずつ出していって、段階を踏んで理解してもらったよ。もちろん、普通以上に仕事を頑張らないといけなかったけど。

質問10:性別を変えて生活するにあたって、会社にはどんな説明を?
会社には「自分はコッチです」ということは、はっきりは言ってないんだ。技術職だから、見た目には何も言われなかった。 最初は中性的な格好から始めて、Yシャツの下着やインナーを女物にするなどの細かいところから徐々に変えていって、次は上着、スカート、化粧の順番かな。スカートをはくときに最初は「大丈夫かな?」と思ったけど、今は何ともないよ。服装を理由に辞めさせようとすれば、そうできたとは思うけど、私は仕事ができた方だった。自分でなければできないことがあったから、仕事をそのまま続けられたんだと思う。

質問11:周囲の反応はどうでしたか?
どう見ても女にしか見えないMTFは、ほんの一握り。周りがひそひそ話をしないわけがないよね。好きな格好をさせてもらうからには、自分がちゃんとしてないといけない。私はやることやってるから、「文句があるなら仕事で引き摺り下ろしてみろよ」って、そのくらいの気持ちで仕事を一生懸命続けてきた。

質問12:面と向かって否定してきた人はいる?
直接私が会ったなかにはいないかな。否定する人がいるのは知っているし、仕方ないとは思う。それでも日本は認められている方だし、迷惑をかけないように心がけることが大事。迷惑をかけなきゃ、何をしてもいいというのは間違いだよ。

みんな権利を主張するけど、そうするとヒステリックに見えて扱いにくくなっちゃう。前にあったニュースの話でね、性転換したMTFで社長をやっている人がいたの。その人は、まとまったお金を出さないと入会できないゴルフ場の会員になったんだけど、女性用更衣室を断られてすごく怒ったっていうんだけど……。それはどうかなって思った。本人がどう主張しようと、認めない人は認めないんだから。認めろと迫るのはヒステリックでしかないよ。

MTFの子って、本来の性別で生活する権利を認めてっていうことをよく言っているけど、権利を主張するからには、まず人としてきちんとして同時に謙虚な気持ちも持っていないといけないと思う。

質問13:身体の性別と心の性別が違ったわけですが、自分の身体に違和感は?
うーん、情報さえあればすごく違和感を覚えたんだろうけど……。うっすらと自分は他の人とは違うなとは思っていたよ。私のときは「性同一性障害」や「MTF」っていう言葉もない時代だったから、自分自身のことがわからないままに人生を終えた人が、たくさんいるんじゃないかな。

質問14:MTFの人はご自分のことを、パートナーにどう説明するんでしょうか?
MTFは「自分が男であること」を隠して、パートナーとつき合ってる人って結構いる。だけど、カミングアウトできなくて苦しんでいる子が多いよ。もし、パートナーがいくら大丈夫だと言ってくれても、相手の家族にカミングアウトするか、それとも隠し続けるか、性別は? 戸籍は? 子供は?……。って悩みは尽きない。仮に性転換してもいつかは言わなければいけないこと。どうにもならないことはポジティブに考えていくしかないよね。

MTFの子は、それまでの人生でとても傷ついている子が多いから、戸籍を変えて結婚したいと思う子が大半なんじゃないかな。私の場合は、パートナーや周囲に受け入れてもらえて恵まれてると思う。わたしは「好きな人と人生を歩む」というよりも、自分の好きな人生を歩んで、その先にパートナーがいる、っていうふうに考えてる。死ぬまでわがままを通していく覚悟を決めてるよ。

質問15:性転換についてはどう思う?
性転換はパートナー次第だけど、やるつもりはあるよ。すぐにやらないのは、性転換をしなくても特に困ってなくて、仕事で楽しい事もたくさんあるから。手術をするとなると、まとまった休みとお金が必要になるし、すぐには難しいかな。でも、いつでも手術ができるように、ホルモン治療は続けてる。

普通のMTFは、自覚したら一直線に性転換へ向かって、女の子として社会に埋没して生きる子が多いんだけど、そもそも境界線がはっきりしているわけではないから、自分はニューハーフとMTFの中間なのかもしれないよね。

質問16:性別を変えて生きていくにあたって、家族との関係は?
姉が一人いて同居中。すごく仲がいいよ。お父さんは、女の子がもっと欲しかったらしくて、わりと受け入れてくれてる。お母さんが心配性でいたたまれないけど……。理解はしていないけど、かわいいからいいかなと思ってるのかな。でも、性転換などの話はしないよ。親にはあまり言わない。心配はかけたくないから。

自分がこうやって生きて行くっていうわがままを通すために、いろんな人を傷つけてしまうことが切ない。人を傷つけてまで、自分の生き方を通していくことに疑問を感じるときもある。だから「それでもいいよ」って言ってくれるパートナーや、友達に囲まれていると安心するんだ。

質問17:MTFとして、純女(純粋な女性)についてはどう思いますか?
自分には姉がいるし、身近に感じているから何もないかな。女装子(じょそこ)さんみたいに純女を変に持ち上げもしないし、憧れもしない。でも、差を感じるのは結婚や子供のこと。正直なところ悔しいよ。女友達が結婚して子供を産んでって……。元気がないときには聞きたくない(笑)。話題として女の子は気にせず出すけど、私を特別視していないからこそ言える。それは嬉しいと思う。それに、子供が産めないと女じゃない、とは思わないから劣等感は感じないよ。今は産めない・産まない人が増えているし、女だから得ということはないと思ってるから。

質問18:「女の子らしさ」って、何だと思いますか?
この間、浴衣についての番組を見て、立ち振る舞いや気遣いの話で出てきた「心得美人」っていう言葉に惹かれたの。女の子らしさって、メイクや服装で飾るものじゃなくて、気持ちから来るものじゃないかな。

私は一カ月に一度、「女としてやるべきことをやる日」にしてる。洗濯をしたら丁寧にアイロンをかけるとか、そんな細かいことこそが大切で、人よりキラキラしたものを身につけることじゃないって思うんだ。こういう女性でありたいっていう理想像を持っているのが、素敵だと思う。誰かに言われるからじゃなくて、自分がそうなりたいからっていうのを大事にしたいよね。

質問19:女装子さんについて、どう思いますか?
根っこから生き方が違うから、比べることもできないけど……。MTFは現実を受け入れるために社会にあらがってる。自分の気持ちに嘘をついてしまえば、いろんな摩擦が生まれずにずっと楽になるってわかっていても、辛い思いをして自分の生き方を通すんだよね。現実に直面しつづけてる。

その点、女装は全く逆で、一言でいえば現実逃避。現実逃避していないのは女装じゃないって言ってもいいと思うんだけど。たとえば年齢があわない服装・コスプレみたいな格好をする人がいるよね。目的が現実逃避だから、現実から離れれば離れるほどよくて、極端な方にいくの。女装はあくまで趣味でストレス発散のための手段っていうことに、意外と本人たちが気がついてないことが多いね。そこを見誤って「女になりたい」とか「自分は女だった」って思うとしなくてもいい苦労をしちゃう。でも、今は40歳の男だけど本当は見た目20歳の女の子だって言いながら現実逃避をずっと続けていたら、思い込んじゃうんだよね。そうしてホルモン注射・離婚・性転換ってなっちゃって……。

現実逃避したらいつか戻らないといけないし、逃げ続けて幸せになった人はいないんだから、現実と女装生活のバランスをとることが、健康的な女装のやり方なんじゃないかな。現実に立ち向かわないといけないMTFの苦労は、女装の人はしなくてもいいんだから、まだ背負わなくてもいいと思うよ。

質問20:将来の夢は何ですか?
結構具体的に決まってるんだよね! 今、念願だったバイヤーの仕事を手がけはじめてるんだけど、まずは3年後にバイヤーで成功。5年後はテレビでコメンテーターなんてやって、芸能界に返り咲きたいな。去年いろいろ落ち着いたから、女性として愛されて幸せになる時間も作りたいな。それができたら50歳くらいで死んじゃってもいいかな(笑)。

でも、理想としている女性像を極めたいね。ニューハーフの美学にニューハーフ道みたいなものがあるとしたら、わたしはMTF道かな。自分の生き方を大切にしていきたいと思う。

インタビューをするなかで、あやさんはいつも周りの人を気遣いながらも、自分の生き方についてひたむきに取り組む、素敵な女性だと感じました。それは性別関係なく、人としての魅力そのものなのでしょう。さて、あなたはどうでしょうか?あなたが「あなた」として生きていくために、何を守り、何を主張し、どんなことをしていきますか?

・桃紗希あやさん アパレルに勤務しながらイベントオーガナイザーとして、毎月東京・六本木でトランスコミュニティパーティー「+α」(プラスアルファ)を主宰している。

執筆: 女装カメラマン・立花奈央子 公式サイト / Twitter

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