今をさかのぼること11年前の2001年12月、一冊の本が日本プロレス界に投下され、業界のみならずファンもろとも泡を吹いた。暴露本とも言われているその本の名は、ミスター高橋著『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである(講談社)』、通称「高橋本」である。

どのような内容なのか簡単に説明すると、「プロレスは真剣勝負ではなくエンターテインメントである」といったものだ。「勝敗は最初から決まっている」とまで書いてあったこの本に、ピュアハートなプロレスファンたちは大いに動揺、混乱した。

さらに流血のしくみまで事細かに説明されており、当時のプロレスファンたちはビデオを見直し、その目でハッキリと事実を知る。「最初から知っていたよ」という人もいれば、「ヤラセだったなんて……」とプロレスから離れてしまうファンもいた。

そんなプロレス混乱期に描かれた漫画を今回はご紹介したい。根っからのプロレスファンであり、週刊プロレス投稿者出身という恥ずかしい経歴をもつ漫画家・マミヤ狂四郎氏がアイドルグラビア誌『ウォーB組!(サン出版)』に描いた学習まんが『ピーター博士の流血のひみつ』である。

漫画の内容は、高橋本に書いてある「流血」についての内容を勝手に漫画化、わかりやすくビジュアル化したものであるが、最大の見どころは “高橋本には書かれていない流血のしくみ” が描かれたラストの部分。マミヤ狂四郎本人が、ザ・グレート・カブキ選手とゆかりのある某トンパチレスラーから直接聞いた秘蔵の話だ。

たしかに流血は演出かも知れない。だが、その演出を最大限に “魅せる” ために、ザ・グレート・カブキ選手が人知れず試合前に行なっていた “仕込み” に、あらためてプロレスラーの凄さを知ることになるだろう。これがプロレスである。これがプロレスラーなのである。

(文=GO、まんが=マミヤ狂四郎Twitter

※漫画の下に話中に登場したプロレス専門用語解説があるので、意味がわからない人は先に下をチェックしておこう!

【漫画中に登場したプロレス専門用語解説】ピーター博士のプロレスまめちしき

※「カット」
ずばり「切る」という事。例えばピーターがカットすればピーターカット。タイガーがカットすればタイガーカット。もし万が一、藤波辰爾がカットすればドラゴンカットとなるようだ。

※「ミスター高橋」
裁いた試合は2万試合以上! 押しも押されぬ元・新日本プロレスのレフェリー。2001末に発売された暴露本「流血の魔術 最強の演技」でウブなプロレスファンにセンセーショナルな爆弾投下。ちなみに「ピーター」というのは、彼のニックネーム。

※「ジュース」
プロレス業界では流血の事を「ジュース」という。レフェリーは試合前にコッソリと「今日、ジュースだから……」と各レスラーに告げ、試合中の隙を見て誰かしらがスパっとカットするわけだ。

※「ハマの人切り」
ピーター曰く「誰が言うこともなく、ついたアダ名がハマの人切り(ハマは私が横浜出身のため)……なんてカッコつけたいところだが、実は自分からそう名乗っていた」とのこと。自分から名乗るくらいなので、相当お気に入りのようだ。

※「タイガー服部」
レスラーに蹴られて(事故)転げ回ったり、失神したり、とにかく派手なアクションで試合を裁く新日本プロレスのレフェリー。彼の場合はリストバンドにカミソリを隠している場合が多い。タイガーが切れば「タイガーカット」だ。

※「セコンド」
リングサイドでプロレス雑誌のカメラマン等に混じって試合を観戦するレスラーの事をセコンドと言う。

※「かまいたち」
つむじ風に乗って現れるイタチに似た妖怪。両腕には鋭い鎌を持ち、風が通り過ぎると刃物で斬りつけたような傷を負ったり皮膚が裂けたりする。何故か下半身を狙うことが多い……というのが妖怪のかまいたちだが、セコンドにいるかまいたちは額を狙うことが多い。

※「クロネコ」
……ヤマトの宅急便ではなく、故ブラック・キャットというレスラーのこと。熱心なプロレスファンは親しみを込めて「クロネコ!」と呼ぶ。ファミコンの筋肉マン(マッスルタッグマッチ)のミート君(黄金の玉を投げてくれる)みたいな存在。

※「自分でスパっと」
カットをしてくれる人は、なにも皆「切り上手」という訳ではない。「下手な人に切られるんだったら自分で切った方がマシだ!」…という人は自分でカットする。上手い人がカットすると、派手に血は出るけど傷跡は目立たないそうな。

※「トリック」
血糊説やケチャップ説や赤の絵の具説等が噂されていたが、いざタネを明かせばなんてことはない本当の血だった。プロレスファンは信じつつも疑い深い。

※「デスマッチ系団体」
今回はカミソリを使った流血方法を説明したが、デスマッチ系団体などの流血はまたひと味違う。実際に割れた蛍光灯がブッ刺さって流血したり、割れたガラスの破片で流血したりと、この場合の流血に関してはカミソリなんて次元ではない。そのまんま流血、だ。

※「まるで噴水の如く」
美しい弧を描き、噴水の如く流血するその様は、芸術という言葉以外では表現できない程にミステリアス。この奥義を初めて見たとき、筆者は「どこにホースが隠してあるんだろう…?」なんて思いました。こんな芸当、カブキさんしか出来ません!

▼この動画の8:14〜がカブキさんの流血芸だ!

※「これぞ東洋の神秘」
東洋の神秘といえばザ・グレート・カブキ。その逆もしかり。ヌンチャクや毒霧などのギミックの元祖にして、世界的に成功したレスラーの元祖でもある。ちなみにあのザ・グレート・ムタのお父さんという設定もある。

※「ゴンゴン」
この話をしてくれた某レスラーによると、「控え室からゴンゴンと不気味な音が聞こえてきて、不思議に思って覗いてみたら、鬼のような形相でカブキさんが一心不乱に壁に頭突きカマしていた。そのプロ根性が恐ろしかった」とのこと。なお、ゴンゴンと言っても女子プロのゴンゴンこと小倉由美選手ではない。

※「血ぶくろ」
某レスラー曰く「般若の様な形相でカブキさんが控え室から出てきた。よく見るとオデコがプックリと腫れ上がっていた。ちょっとプニプニしていた。プニプニしていたけど、素顔なのにハンパない迫力だった」とのことだ。

※「血は血」
とか言いつつ、他人の血を注射器で採取してコンドームに詰めて口に含み、ラリアットを受けたと同時に噛みちぎる等という演出もあったりする。だけど他人の血を口の中に隠し持って試合するレスラーも、インチキどころかもの凄いプロ根性である。

▼この動画の12:00〜がカブキさんの噴水だ!