【女装カメラマン / 立花奈央子コラム】ゆるキャラ「まんべくん」で一躍その名を全国に轟かせた、北海道の長万部町。Twitterをはじめとした、自由すぎる発言にネットユーザーなら誰しも一度は驚いたことがあるはず!

そのまんべくん、長万部町のマスコットキャラクターとして町に観光客を呼び込まなくてはいけないのですけれども、いざ見所は? というと……。

おおおおおい! 仮にも広報担当なのに! さすがになんかあるでしょ! 自然とか! 食べ物とか! なんか! 以来気になって仕方なかった私は、現地長万部に明るい先輩記者にリサーチしたところ、こう断言されました。

「本当に何もない」

はたして本当にそうなのか? 地上の楽園すぎる長万部を独り占めしようとしているのではないか? そういえばおしゃれっぽい響きだし。様々な逡巡の末、真実を詳らかにすべくはるか北海道へと足を伸ばしてまいりました。

長万部は札幌から特急列車で二時間。特急利用往復で交通費は13000円と、ショートトリップとしてはなかなか豪気な運賃。ちなみに今回は電車時間の関係でわずか2時間の滞在です。

車窓からの風景は青い空、草原、虹とまるで長万部へ向かう私を祝福しているかのような相当なヘブンっぷり。期待は高まる一方です。

さあ、着きました! どーん。

違いますね。どよーんですね。まあ、地方の駅はどこもこんな感じなのには慣れています。先輩記者と合流して、町の見所を案内してもらうことに。現地マップはこんな感じ。非常にシンプルな町のつくりなので、かわいらしいデザインとあいまって、とてもわかりやすい地図になっています。

しかしよくよく目をこらすと、かにめし、温泉に混ざって本来観光地マップではありえない業種の案内が!「白島ふとん店」「井上司法書士事務所」「柴山保険事務所」。……いったい観光客の誰が利用するというのか? それだけ観光資源が限定されているのか? そして空を覆いだす雲。大丈夫なのか、いろんな意味で。

まずは地元民おすすめのかにめし屋へ。どんよりとした曇天に強い風でさらにわびしさが増す中、タクシーで1メーターをゆきます。この寂寥感。人気ゆるきゃらまんべくんを擁する観光地だというのに、地平の果てまで追いやられたかのようです。

店舗はわかりやすい色使いで安心の店構え!

店内は明るく清潔で、店員のおばちゃん、おじょうちゃんが明るく出迎えてくれましたよ。

貸し切り状態の店内で供された「かにめし定食(1400円)」。ふわっと立ち上るかにの香りに、ほろほろにほぐされたかに肉と地元の米のかぐわしいハーモニー! だしのよくきいたお味噌汁と交互にいただくと、一口ごとにうひょお、と奇声が漏れます。

っていうか、何もないって言ってすみませんでした。と口に出して言いました。遠方から足を運んだ期待値補正をものともしない、文句のつけようのないおいしさでございます。ごちそうさまです。

さあ、食事後問題になるのは、どうやってこの町を楽しんでいくか? ということ。地元店舗をフィルタリングした観光地図を想像すると、残るは温泉しかありません。しかし温泉へ行く時間はない。そこで町歩きだ。でも遊歩道や歴史ある街並みといったものは見当たらないのです。

そこで連れられた先は、町役場でした。はい。町役場の中では、観光みやげの数々がガラスケースに入れられてちんまりと展示されており、他に見るものは真面目に職務をこなす公務員の方々。地方役場はさぼっている人がいるかと思いきや、皆さんすごくきびきびと動いていてちょっとびっくりしました。観光地として役場を訪れたのは初めてです。

いよいよやることがなくなってきたので、海っぺりから散歩することとします。

吹きすさぶ風、風、風。年がら年中バギクロス。

重たい女子もオホーツクまで吹き飛ばされそうな勢いです。

今は冬だからこんなに寂しい風景なのだろう、夏はきっと海水浴でにぎわうのだろう、と思いきや「海水浴は禁止されているらしいよ」と先輩記者。おおう。

中心街とされる駅前通りへ。はい、駅前です。ずっとずっとこんな感じで、空いているお店の方が少ないことは予想していた通りでした。それにしてもずっと歩いていてもほとんど人とすれ違わない。みんなどこで暮らしているんだろう?

きれいな住宅が多いところを見ると、みんなお金持ちなのかもしれません。

駅にほど近く、線路の上をわたる大きな大きな歩道橋。錆加減、腐食具合、いずれもなかなかで廃墟マニア垂涎ものかと思われます。道中、女子高校生とすれ違いました。人が歩いているだけで感動を覚える駅前観光地など、そうそうありませんね。

アパートのそばにあったプレハブ小屋に張り紙。「此の物置は皆さんで仲よくつかって下さい」。おおらかだなあ。

かつては室蘭本線と函館本線の分岐駅で、瀬棚線の実質的な起点駅。一大拠点として、機関区、鉄道病院、車掌区、鉄道郵便局分室もあったそうですよ。

さあ、いよいよ次はメインの観光資源とされる温泉街へ! いい感じだったらちょっとカラスの行水でもかましてこようかと浮き足だっていると、それは地味に現れました。

営業しているのかしていないのかわからない感じですが、どこも開いてはいるようした。人里離れてのんびりしたい! という人にはうってつけの「おこもり宿」ですね。人里ですけど。右側の商店、歴史ある店構えのため店名がわかりませんが「田村商店」というそうです。観光マップに掲載されていました。

温泉街で一番大きいと思われる長万部温泉ホテル。入り口がなんだか道の駅みたいで、苗とか充実してましたよ。

敷地の反対側にはなんとなく面白い感じの看板が。黄色、緑、赤のプレートが風に吹かれてずーーーっとシャラララララとけたまましく鳴っていたのが新しかったです。

廃業した旅館も途中に少しありました。ひしゃげた軒先から雪国の厳しさがうかがえます。

人気のない道をてくてくとゆくと、車道沿いで唐突に何かの小屋が。中をのぞくとネクタイや衣類が置いてあるけれども、物置にしては前に出過ぎている、一体なんなんだろう? そう訝しがって近づいてみると。

無人販売所でした。こんな無人販売所、見た事ありません。それにしても持ち逃げに悩まされるのはどこも一緒とみえて、手書きの注意文が胸をしめつけます。がんばれ。

一時間ほどぐるりと歩いて駅舎へ戻ると、観光情報センター「インフォまんべ」前で町の人がお花を活けてました。人口6000人程度の小さな町ですが、ゆったりと豊かに暮らしていて幸せなんだろうなあとほんのりあったかくなりましたよ。

電車がくるまでの間、インフォまんべでまんべくんグッズを購入。Tシャツ、ボールペンなどオーソドックスなアイテムはもちろん、金太郎飴やお守りなど、豊富なグッズがこんもり陳列されておりましたよ。通信販売はこちら( http://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&me=A1N5B8FN15AUXI )!

インフォまんべの奥にはまんべくんの部屋があり、週末やイベントの時に行くとまんべくんに会えるみたい! 私が訪れた時は出張準備のため留守でしたが、部屋の中を見せてもらえることができましたよ。部屋の中はからの貢ぎ物や手作りまんべくんグッズで満たされていました。

さすがサブカルイベントの聖地、ロフトプラスワンでのイベントチケットを5時間で売り切るだけのことはあります。圧倒的支持。

まんべくんグッズにきゃあきゃあ言いながら観光協会の職員さんと談笑していると、「3分くらい待つといいことがあるかも」というような意味深な発言。そんなに気にせず狭い駅舎内をふらふらしていたら……。

すわ、インフォまんべの奥、扉から半身を覗かせる巨大なピンクの物体が! そう、まさかの、まんべくん!! 長万部に何もないのを検証するために訪れた私のために! わざわざ! まんべくんが駆けつけてくれたのです!

私、取材だなんて一言も言っていないので、本当にただの観光客、しかもぼっちなのにですよ。感動のあまり、とたんにテンション最高潮となる自分。駅舎でぎゃあぎゃあと喚きながらまんべくんに抱きつき、ボディブローをかまされつつも思いっきりいちゃいちゃしていたら、観光協会の人からまた驚きの一言。

「駅のホームまでお見送りします」

その電車に乗る観光客は私だけ。つまり私のためにお見送りプレイ! イベントだともみくちゃにされる超人気キャラがですよ。どきどきしながらホームへ向かう、そのほんの数分の移動時間の間でも、観光協会のお姉さんが朗らかに笑いながらまんべくんトークをしてくれて、なんかもう言いようのないハートフルな時間を過ごしました。

まさかこんなに嬉しい出来事があろうとは。どんよりした雲も激しい風もすべてどうでもよくなる、瞳孔の開ききった悪童とそのスタッフのホスピタリティの質の高さよ。

そうこうはしゃいでいるうちに電車のドアは閉まり、出発。姿が見えなくなるまでハサミを振り続けてくれたまんべくんはマジでイケメンでした。また会いにくるよ! 長万部!

長万部に普通の観光地らしいものを求めると苦しいけれど、何もないのを面白がれるならむしろ必見。長万部にはまんべくんと長万部を愛するあたたかい人がいます。激混みした夢の国でネズミの尻追いかけるより、君だけを見てぎゅっと抱きしめてくれるまんべくん! かにめしもべらぼうに美味しいから、みんな行くといいと思います。

執筆: 女装カメラマン・立花奈央子 公式サイト / Twitter