皆さんは、ネパール連邦民主共和国の特殊な存在「クマリ」をご存知でしょうか。クマリとは生き神として崇められており、年に一度だけ「インドラ・ジャトラ」という大祭で人々の前に姿をあらわします。今回は、その大祭に参加したことについてお伝えしたいと思います。記者(私)は幸運にもクマリの撮影に成功し、現地の人々に「運が良くなり、幸せが訪れる」との言葉を頂きました。皆さんもクマリの画像をご覧になれば、幸せがもたらされるかもしれませんよ!

・クマリとは?
ネパールの首都カトマンズの「クマリの館」で生活するクマリ(ロイヤル・クマリ)は、同国の人々にとって特別な存在です。国の運命を占う預言者であり、国家要人でさえもクマリに跪くといいますから、その存在の偉大さが伺いしれると思います。一説によると、守護神である「女神タレジュ」や「アルナプルナ」の生まれ変わりされており、館では一切外部の人の目に触れない環境で生活を続けています。

預言者というだけあって、老婆をイメージされる方もいるかもしれません。しかしクマリは少女です。国内で満月の日に誕生した女の子から、厳正なる条件をクリアしたたった一人の女の子が選ばれるのです。そしてその少女が「初潮」を迎えるときに退任し、次のクマリへと引き継がれます。現クマリは2008年に当時三歳で選ばれ、現在までその役目をはたしています。この日も大きな山車(だし)に乗って、人々の前に姿をあらわしました。

・インドラ・ジャトラとは?
インドラ・ジャトラはカトマンズ市街で行われる大きなお祭りです。雷を操るインドラ神(漢訳:帝釈天)をはじめとする神々が祀られ、広場や路上ではさまざまな仮面を付けた人たちが舞い踊ります。8日間の期間中にクマリを目にすることができるのは、わずか3日間だけ。会場のダルバール広場には、その姿をひと目見ようと、多くの人たちが早くから詰め掛けていたのです。

・会場は「ひと目見よう」という人で大混雑
クマリが行進をする時刻は17時、記者が会場に着いたのは13時で、少し早すぎたかなと思ったのですが、すでに広場は人で埋め尽くされており、一度持ち場を離れたら、二度と元に戻れないほどごった返していました。用意されたプレス席に張り付いて、そのときを待ったのです。

ところがプレスといえども、そう簡単に行進のときを迎えられそうにありません。というのもプレスと関係のない人が、エリアに入り込んでいて、カメラを構えるどころの騒ぎではありません。しかも、行進まではまだ随分時間があります。「このままここに居られるのか?」と、不安が頭をもたげたそのとき、警察官がやってきました。「ここはプレス席だ!」と、注意を促すと無関係の人々は渋々席を空け始めました。

記者にも、移動するように促したのですが、「Tokyo! Japan!」といってカメラを見せると、「OK! Welcome!」と言って、立ち去っていったのです。おかげで、ベストポジションを確保することに成功しました。

・姿をあらわした神々
行進一時間前に、各国大使やネパール首相が特等席に着くと、来場者のボルテージはにわかに上がり、会場は興奮で満たされました。そして17時に号砲が鳴り響き、一台目の山車が広場に入ってきました。「あれがクマリ?」と近くの人に尋ねると、「いや、あれはバイラブ(力の神)だ」と教えてくれました。続いて入ってきた山車を見て、「あれがクマリ?」と同じ人に尋ねると、「いや、あれはガネーシャ(智慧・学問の神)」と、やはり丁寧に教えてくれました。

バイラブもガネーシャもまだ幼い子ども、その姿に会場は熱気で包まれています。そしてさらに大きな山車が場内に入ってくると、人々から今までにないほどの歓声があがりました。今度は聞くまでもなく、クマリであることがわかりました。

・ネパール人も大興奮「カメラ目線なんてありえない!」
そしていよいよ、山車に乗ったクマリが目の前を通り過ぎようとしています。記者はプレス席を降りて、できるだけ間近で撮影を試みようとしましたが、異常なまでの人の多さに、立っているのもやっと。それでなくてもクマリを囲む付き人が多すぎて、姿を見ることもままなりません。それこそ「神頼み」でファインダーを覗き、シャッターを切るとなんとクマリがコチラを見ているではありませんか!

その写真をすぐそばに居た人に見せると、「今までにクマリの写真を撮ったやつはいるけど、カメラ目線はありえない!! 昔からクマリと目が合うと、運が良くなり幸せが訪れると言われてるんだ! アンタすごいぞ!」と、記者よりも興奮している様子でした。それにしても凛々しい眼差しです。とても少女とは思えないほどの、神々しささえ感じた次第です。

ネパールの人々の信仰心には驚かされます。日本のお祭りも盛大に行われますが、生き神を信仰する心の純粋さに圧倒されるばかり。その一方で、幸せになりたいという気持ちは、万国共通なんだなと改めて気付かされました。幸運にも撮影できたクマリの姿を通して、読者の皆さんにも幸せが訪れることを心より願っています。

取材、写真:Photographer Koach
執筆:フードクイーン・佐藤

▼ 大祭の中心地、カトマンズ・ダルバール広場

▼ ネパール人専用の観覧席。あまりの人の多さに、危険度MAXと思ったのは記者だけではないはず……

▼ ネパール首相や各国の大使館員は特等席へ

▼ バイラブ(力の神)の登場

▼ バイラブの横顔

▼ ガネーシャ(智慧・学問の神)の登場

▼ ニッコリ笑顔のガネーシャ

▼ ついにクマリの登場!

▼ 尋常じゃないくらいの人ごみに流される

▼ カメラ目線のクマリ