本を愛する人であれば、その作品世界に浸れることを「ぜい沢」と言うに違いないでしょう。それがもし、劇場のような天井の高い広い空間であれば、より読書に集中できるのかもしれません。そんなぜい沢な環境を整えているのが、アルゼンチンの書店「エル・アテネオ」です。ここは以前紹介した世界三番目に美しいといわれる「レロイ・イ・イルマオン書店」のうえを行く、世界で二番目に美しい書店なのです。

書店は同国首都ブエノスアイレス、サンタ・フェ通り沿いにあります。1919年にオペラハウスとしてオープン、1050席を設けて国民的なアルゼンチン・タンゴの歌い手カルロス・ガルデルやフランシスコ・カナーロ、ロベルト・フィルポなどがその舞台に立ちました。余談ですが、アルゼンチン・タンゴはこの頃、当時の流行発信地であったフランス・パリで受け入れられ、大流行したのです。エル・アテネオはその普及に一役買っていたのでした。

1924年に一室にラジオ局を開設。同時にレコード会社を設立し、のちに語り継がれることとなる偉大なアーティストたちは、ここでレコーディングを行ったのでした。1920年代後半になると、映画館に改築され1929年にはアルゼンチンで初めての音声つきの映画作品の上映が行われたのです。

2000年に書店グループが買収、座席はすべて取り除かれて本棚が配置され、現在まで書店として運営されています。実はこのときに取り除かれた座席は、店内の各所に設置され、来店者が腰掛けられるようになっています。ここでタンゴが歌われることはもうありませんが、その席に座れば、当時の雰囲気を味わうことができるのです。

年間100万人が訪れるといわれるエル・アテネオ、私もその一人として、建造当時に思いを馳せてみました。天井のフラスコ画や繊細な壁の装飾に、「感動」という言葉だけでは表現しがたい鮮烈な印象を受けた次第です。

何よりもぜい沢なのは、当時ステージだった場所がカフェスペースになっていることです。正直「こんな場所で本を読みながら、コーヒーを飲んでいていいのかな?」と思わずにはいられませんでした。本を愛するすべての人へ、ぜひ一生に一度、ここを訪れて頂きたいです。

取材、写真:Photographer Koach
執筆:フードクイーン・佐藤
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▼ 3Fから見た正面の様子、荘厳という言葉がもっとも相応しい

▼ 劇場だった様子をうかがい知ることができる

▼ 舞台上のカフェ

▼ 幕の内側から見る外を見ると、役者の気分

▼ コーヒーを飲みながらページをめくる。このうえないぜい沢だ!

▼ 当時の観客たちは、ここから素晴らしいステージを見ていたに違いない

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