街の看板に電車の中、テレビに新聞に雑誌にネット……と、様々な媒体で見ることになるのが「広告」だ。最近は動画を見たり、メールをしているだけでも広告が表示されるという、まさに広告戦国時代といった状況だ。

そんな広告のなかでも、特に印象に残るのが他社製品と比較して自社製品をアピールする『比較広告』である。日本では、そこまでドギツイ比較広告を目にすることはないが、海外広告界はかなり直球ストレート。たとえば……

 ・日本で本格的な比較広告が認知されたのはペプシの「M.C.ハマー」

数ある比較広告のなかでも特に有名なのが、かつて全世界で一世を風靡したミュージシャン「M.C.ハマー」を起用したペプシコーラのCMである。その内容はいたってシンプル。いつもペプシを飲んでノリノリになっているM.C.ハマーにコカ・コーラを飲ませたら……といったものだ。

いきなりテンションが落ちるM.C.ハマーに、観客がペプシを手渡す。それをM.C.ハマーが飲むと、いつも通りのノリノリM.C.ハマーが復活! このCMは日本でも短期間ながら放送され、その当時、大きな話題になった。覚えている人も多いのでは?

しかし話題になると同時に、物議をかもした。「あまりにも直球すぎないか」、と。公正取引委員会の見解は問題なし。だが、各テレビ局はこのCMの放送を拒否。その理由は「業界に不必要な混乱をまねくから」であったという。

・相変わらず海外の比較広告は“過激にストレート”
M.C.ハマーのCMだけではなく、ペプシはほかにも過激な挑戦状をコカ・コーラに叩きつけている。例えば「自販機のペプシが届かない少年」なども同じパターン。ペプシのボタンが自販機上部にあり、どうしても手が届かなかった少年は、コカ・コーラを2本買い、それを足場にしてペプシを買う――といったものである。

ペプシ以外にも海外CMは過激のひとこと。日本でもおなじみのマクドナルドも過激な比較広告を出している。マクドナルドのポテトを外で食べていると、まわりのみんなが「それちょうだい!」と寄ってきて食べられてしまう。だからバーガーキングの袋で隠してみたら、誰も寄ってこなくて一人で満足に食べられた!―といったものだ。シンプルながら過激である。

・フード業界以外に比較広告が強烈なのはモバイル業界
前述の海外CMは、いずれもフード(飲食)業界。しかし、それ以外にも強烈な比較CMが目立つ業界はいろいろある。そのひとつが携帯電話などのモバイル業界だ。携帯電話を “モノ” として比較することはもちろん、通信速度も料金体系も、比べることは山ほどある。

近年話題になった携帯電話のCMといえば、インドのNOKIAが放った「直接対決系CM]である。内容はいたって単純。NOKIA社員がインドのショッピングモールに出向き、他社製のスマホを使っている人に対し、

「よーいドン! で写真を撮って、Facebookにどっちが早くアップできるか対決しよう」などと対決を申し込む。承諾してくれた即対決となるわけだが、やっぱり大抵はNOKIAスマホの新製品「NOKIAルミア」が勝つ。

そしてCMの最後に、敗者である他社製のスマホを使っていた一般ユーザーが、「私のスマホはNOKIAルミアに負けました……」なる看板を悔しそうに掲げる姿を映してCMは終了。なんという屈辱。インドNOKIAは強気である。

・一方、日本の比較広告は“うっすら分かりやすく比較”系
一方、日本の比較広告はというと……。海外ほどドギツくはないが、実はM.C.ハマーのCM以前、かなり古くの1970年代から比較広告は存在していた。しかし、直接的にライバル社を名指しするわけではなく、見る人が他社を連想できるように、奥ゆかしく「うっすらと」、かつ「分かりやすく」比較するのだ。

たとえば1970年代に日本で放送された「日産サニー1200」のCMもそのひとつ。CMの最後に少年が「隣のクルマがちいさく見えま~す」と言うのだが、このクルマというのは当時ライバルでもあったトヨタのカローラを指している。あえて言わない。だが、連想させる。

テレビCMだけではなく、一枚絵、つまりは画像系の広告でもこの「うっすら」加減は同じである。よく見かけるのがケータイ・スマホ業界での速度比較。はっきりと他キャリア名を出すときもあるが、「A社」、「B社」と分かりやすさを残し、ぼやかしながら比較していることが多い。

・発展系の“挑戦的だが分かりやすい系比較”も登場
その一方で、「発展系」ともいえる比較広告も存在する。たとえばオリックス生命の「ネット型生命保険」のサイトである。パッと見、おなじみの「A社」、「B社」と名前を伏せて比較しているのだが、画像の「A社」などにカーソルを合わせると「クリックすると外部のサイトに遷移します。」と表示され、そこを押すと……

「これより先は、オリックス生命保険のウェブサイトではありません。A社(○○○○生命保険株式会社)のウェブサイトへリンクします。」
(○○○○に比較対象の社名が出ている)

というページに飛び、さらに「移動する」ボタンを押すと、他社ページへ飛ぶことができるのだ。最終的には他社を名指しで比較しているのだが、これはかなりの変化球。分かりやすさを重要視ながらも、なかなかきわどいコースだ。さらに同社は、新聞広告でも同様に他社との比較広告を展開し、表現などへの規制が厳しい業界の中でもかなりチャレンジングなアプローチをとりはじめており、各方面に刺激を与えているらしい。

商品を選ぶ側からすれば、企業や商品の強みや差がわかりやすく表現されるのであれば大歓迎なのだが……どういうわけだか、見ているこっちがヒヤヒヤしてしまうのはなぜだろう。また、直球ストレートの比較広告をすると物議を醸す日本において、このやり方が現在のギリギリレベルとも考えられる。

自社の製品やサービスをゴリ押しすると引いてしまう日本人へ向けて「挑戦的だが分かりやすい比較広告」を作るには、消費者に対しより利益の生まれる情報を全部与えることと、日本人らしい微妙なさじ加減、そしてある種の思い切りが重要なのかもしれない。

(文=インターネットパトローラー・バッチ偶三)
参考リンク:Youtube RetroWinnipegオリックス生命保険ネット型生命保険

▼「M.C.ハマー」を起用したペプシコーラのCM

▼自販機のペプシが届かない少年

▼バーガーキングの袋で隠してみたら……

▼インドNOKIAのCM


▼「隣のクルマがちいさく見えま~す」

▼ 「A社」「B社」と書かれた部分から他社ページへリンクするとは…かなり思い切った感じだ