何者かに楽天市場のアカウントを乗っ取られた私(本誌記者)。ことのなりゆきは『シリーズ・追跡ネット犯罪』をご覧になって頂きたいのだが、ともかく私は乗っ取り野郎が指定していた発送先を訪ねてみた。場所は大阪、通天閣のほど近く。

乗っ取り野郎は高級炊飯器(5万6800円)をご購入とのことだったので、私も負けじと、持参したのは滋賀県産の高級米、5キロで3280円の「ミルキークイーン」である。

・ドアの前でいろいろと考える
実は大阪に到着した時、足の震えが止まらなかった。なにげにビビっていたのだ。しかし、目的地が近づくにつれ、足の震えはおさまり、落ち着きを取り戻し始めていた。

ドアの前に立つ私。なかなか感慨深いものがある。私の名前入り配送ラベルが貼られたダンボールが、このドアの向こう側にあるかも知れないのだ。

しかしながら、この家に住んでいる人が乗っ取り野郎であるとは限らない。むしろ、住所を勝手に使われた被害者なのかも知れないのだ。私と同じ、「被害者なのに被害者じゃない」という、悲しい運命の人物であるかも知れないのだ。

ご挨拶せねばならない。そして、注意を促さなくてはならない。「何かに巻き込まれているかもしれないぞ」と。

・ついに対面!
コートを脱ぎ、チャイムを押す。ピンポーン……と、部屋の中で木霊している。しかし「ハーイ」という返事はない。もしや不在……と思ったその時! ガチャリとドアが開いたのだ。

そこにいた人物とは……胸板の厚い、そこそこのイケメン。素直な笑顔が好印象な、年齢24~25あたりの若者だったのだ。上半身はユニクロのヒートテック。下半身もヒートテック。首にはネックレスをしているが、純真そうなヒートテック男である。

君なのか? 私の楽天アカウントを乗っ取ったのは、もしかして君なのか? それとも勝手に住所だけを使われているだけなのか? 一瞬のうちに、いろいろな考えが頭の中を駆け巡る。

・一瞬だけ緊張が走ったように思えたヒートテック氏
私は開口一番、「あ、どーもこんちわ! ○○○○(アパート名と部屋番号)はこちらですか? はじめまして! お届け物にあがったんですけどもぉ……楽天市場のですね……」と、元気いっぱいにご挨拶してみた。

しかし、「楽天市場」という単語が出たその瞬間、ヒートテック氏の表情、ならびにヒートテック氏から発せられるオーラが、一瞬どんよりと曇った気がした。

その後、私はドモりながらも、楽天市場のアカウントが乗っ取られたこと。そして、配送先が、この住所であること。配送先の名前は私の名前であること、などの事実を告げ、心当たりはあるのかどうか訪ねてみた。すると……

「ンー、ワカラナイケド」

との返事。やはりか。やはりそうか。知らず知らずのうちに巻き込まれていたクチか、君も。……でも、本当にそうなのか?と思ったことも事実である。とりあえずは滋賀県産の高級米「ミルキークイーン」を渡してみた。快く受け取ってくれたヒートテック氏だったが、すぐに「誰から?」と尋ねてきた。

「誰から? 私です。私です」

ほとんど寝ていない私は、狂気じみた笑顔をふりまきつつ、私が持参した旨を伝えた。ヒートテック氏は、いぶかしげな表情でこちらを見ているが、笑顔は決して絶やさない。そして、なぜ私がお米を持ってきたのか、イマイチ意味が分かっていないような印象も受ける。炊飯器だからお米なのだぞ? それとも炊飯器は届いていないのか? いろいろな妄想が頭をよぎる。

・ヒートテック氏「ワカラナイ」、会話が通じているのかすらワカラナイ
私も負けじと満面の笑みで、「私の楽天市場アカウントの配送先がここなんです。何かお心当たりはありませんか? もしかしたら住所が勝手に使われているかも!?」と注意を促す。しかし、ヒートテック氏から返ってくる言葉は「ワカラナイ」など、事情がよく分かっていないような感じなのだ。

そもそも、この会話が成立しているのかすら疑問になってくる。なぜならば、「何か心当たりはありませんか?」と質問した時、ヒートテック氏は「ココロカラカンシャシテマス(心から感謝しています)」と返事をしたからだ。私の言葉が聞き取りにくかったのか。それとも「心当たり」という単語を知らなかったのか。

さらに輪をかけて、私もうまいこと聞き取れず、

男「ココロカラカンシャシテイマス」
俺「え?」
男「ココロカラカンシャシテイマス」
俺「え? カンシュー?」
男「カンシャ」
俺「カイシュー?(回収?)」
男「カイシェ」
俺「か、会社員? 会社員ね」

と、勝手に彼を会社員認定する始末。もうなんだかメチャクチャである。いずれにしても、日本語が完璧な方ではないようだが、私は何度も彼に対し、「事件にまきこまれているかも知れません」と注意を促した。そして最後に聞いてみた。言葉のイントネーションから想像していた、「中国の方ですか?」という質問を。すると、彼は「ハイ」と答えた。そうか、中国人だったのか。

俺「それじゃ、再見(サイチェン)ということで」
男「アイ。サイチェン!」
俺「それでは失礼します!」

4分近く会話してみたが、分かったのは彼が中国人であるということだけだった。大阪にいるもう一人の私は、つたない日本語をあやつる純朴そうな中国人だったのだ。

・私はヒートテック氏を信じたい。まったくの無関係であると
そうか、君だったのか。私の楽天アカウントの発送先に指定されていた住所の部屋に住んでいたのは君だったのか。何度も言うが、勝手に住所を使われている可能性もある。彼の部屋の前に配達業者が来たその瞬間、まったく別の何者かが「ここはウチです」と嘘をつき、商品をかっさらっていく可能性もゼロではないのである。

できることなら信じたい。彼は私と同じ、被害者なのだと。

・IPアドレスをたどると見えた「中国」
ちなみに乗っ取り野郎が私のアカウントにログインしていた時のIPアドレスを調べた結果、乗っ取り野郎はアメリカ西海岸サンノゼにあるサーバーから楽天市場へログインしているということが判明した。そのサーバーの管理会社を調べてみると、中国・上海にあるIT企業であった。

何も後ろ盾がない私にできることは、非力ながらここまでである。再見、ヒートテック氏。再見、大阪。

追跡ネット犯罪(6)へ つづく

Report:GO羽鳥

▼これを見てから

▼感動の出会い編を見よう!

追跡ネット犯罪(6)へ つづく