ジャッソー! ジョヤサー! 2012年1月29日に岩手県黒石寺で開催された、日本最大級の伝統的な裸祭り『蘇民祭』。ふんどし一丁、気合いの入ったタフガイたちが集まる男の中の男の祭であり、そのムンムン・メラメラとした熱気は本誌でも総力的にお伝えしているところだが、実は死ぬほど寒いのだ!

なぜそう言い切れるのかというと、本誌記者(私)も参加してきたからである。本誌からは私以外にも、もうひとり(記者)、合計2人で蘇民祭に参加してみた。ジャッソー! ジョヤサー!

気温はマイナス7度。チラチラと雪も舞っている。なのに身なりはフンドシ一丁。すでにこの時点で寒いのだが、祭りの開始と共に始まる『裸参り』のキビシさは、「今までの人生の中での過酷な経験ベスト3」に入るほどに強烈だった。

まずは『裸参り』について簡単にご説明しよう。まずスタート地点は黒石寺の本堂。灯籠片手に「ジャッソー! ジョヤサー!」と雄叫びをあげながら、凍った階段、さらに凍った坂道を下って、瑠璃壺川(山内川)へ。もちろん凍てつくほどに水は冷たいのだが、入水するやいなや、用意されている桶で冷水をザバーッと3回浴びる。

そしてまた灯籠を手にし、別ルートの階段、そして山道をグングン上って、境内に戻る……かと思いきや、境内横からさらに階段で山をのぼり、頂上付近にある妙見堂で祈願する。そして完全に凍った山道を注意しながら下り、本堂に戻って……1周おわり。時間にして約20~30分。この行程を3巡、つまり3回繰り返すわけである。水をかぶるのは合計9回だ。

――気合いと共に始まった裸参り。ジャッソー! ジョヤサー! と雄叫びあげると、なんだか心も体も熱くなる。これならなんだかイケそうだ……と思っていたが、川の前に到着し、いざ川の膝上高さの水の中に入ってみると……

……ッ!!!!!!!!!!!!!!! ヤバいくらいに冷たいのだ。いや、しかし、あまりの冷たさに感覚がマヒしたのか、「冷たい」とかそんな次元ではなくなっている。目の前では、男たちが豪快にザブンと頭から水をかぶっている。もしかしたら、いざ頭からかぶったりすると冷たくなかったりするのではないか? 桶を渡され、私も「ジャッソー!」と雄叫びあげて、豪快に頭からかぶってみた。

……冷たい。

完全に冷たい。ヤバいくらいに、冷たい。思わず「ウォー!」と叫んでしまうほどに、冷たいのだ。「もしかしたら……」なんて一瞬でも思った私がアホだった。当たり前に冷たいのだ。しかし、冷たいが、冷たすぎてマヒしてくる。

「ジャッソー! ウォーッ! ジャーーーッソォラーーーッ!」と、立て続けに合計3回かぶってみた。すると不思議なことに、最後の一回をかぶり終えた次の瞬間、一瞬だけ「ボワン」と温かくなるのである。しかし、その効力も数秒で終わり、今度は立ち上がれないほどの寒さがおそいかかってくる。本当の地獄はここからだ。

あれだけ水をかぶったのに、気づけば体は乾いている。おそらく蒸発したのであろう。そして、山の頂上付近にある妙見堂に行くまでが、完全に、それはもう地獄的に寒いのだ。口と膝はガタガタと震え始め、歩けなくなるほど震え始め、「これはほんとに死ぬんじゃなかろうか」と内心思うほどのガタガタっぷり。足袋の中も凍り始める。だがしかし、血気盛んなふんどし男たちに近づくと、なぜかヤル気が湧いてくる。同じ境遇の人が近くにいて、「ジャッソー! ジョヤサー!」と叫びあうと、なぜか不思議とがんばれるのだ。

2巡目の水行になると、もう覚悟も決まっている。山ほどの見学者とカメラマンも待ち構えているので、いろんな意味で「やるしかない!」という気持ちになってくる。さらに、この水行よりも、その後の巡礼のほうが寒さ的にはキッツイということもわかってくる。なんせ気温はマイナス7度、むしろ冷水のほうが温かく感じるのだ。

あたたかいといえば、蘇民祭スタッフや消防団員、来場者たちからの「がんばれー!」「それジャッソー!」という声援。また、「途中で足袋が脱げてしまったが、手がかじかんで思うように動かず、足袋を履き直せない!」というピンチな情況におちいったとき、「オレがやろーかー?」と率先して助けてくれた『蘇民食堂』のおじさんなどなど……多くの人からのあたたかい声援、助けがあると、「絶対に最後までやりきらなくては!」という気持ちになってくるのだ。

3巡目になると、「もうほんとにいよいよ死ぬかも」と思うほどに体力は消耗。さらに、頭は真っ白。ジャッソー! ジャッソー! と叫んでいないと、みるみる体は凍えてくるので、叫び続けるしかないのである。ジャッソー! ジョヤサー! ジャッソー! ジョヤサー! ジャッソー! ジョヤサー……

最後の最後は、本堂近くにある場所で灯籠の火を「ふっ」と消してもらう。この裸参りを終えた者はみな、震えながらも満足気な、「やりきった」という表情をしている。そして、「もうやり終えた者」と、「これからまもなくやり終える者」がすれ違うとき、やり終えた男たちから「ジャッソー!」と最後の気合いを入れてくれる。それは、富士山登場頂上付近で登山者と下山者がすれ違うとき、「あと少しだ、がんばれ!」とエールをおくるシーンによく似ていた。

すべてが終わると、それぞれが陣取っている休憩所に帰って暖をとる。わらぶき屋根で、座るところも藁、炭火が適当に点在している、素朴で実にいい雰囲気の休憩所である。まったく知らない者どうしで「さっむー!」「ハンパない!」と震える笑顔で感想を述べ合い、不思議な連帯感がうまれている。

地元から参加したとある若者は、「蘇民祭のメインは袋取りだけどぉ、キビシさでいったらこれがメインみたいなもんですからねぇ」と言っていた。まさに私も同感だ。だが、参加してよかった。裸参りにチャレンジして本当によかった。これに耐えられたら、もう、大抵のことには耐えられる気がしてくるのだ。ジャッソー! ジョヤサー! ジャッソー! ジョヤサー!
(文=オリュンポス豪

Photo:RocketNews24.
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▼「ジャッソー! ウォーッ! ジャーーーッソォラーーーッ!」

▼かぶったー!

▼ジャッソー!

▼ピカッ!

▼うぉおおおおおおおお!

▼ジャッソォオオオオオオオオオオオオオ!

▼もう感覚はマヒしている。

▼とんでもなく寒い。足袋の中は凍ってるように思えた。

▼うしろの記者の足袋がほどけている。

▼気温はマイナス7度である。

▼7:00~本誌記者2人

▼全てやり終えたあとのインタビュー

▼休憩所で暖をとる。そこでうまれるふしぎな連帯感。友情も深まった。

▼……そう、友情が深まるのだ! 友情を深めたいなら一緒に行くべし!

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