激しい台風の時は外出を控えるべき。しかしながら、台風の時にビショ濡れになりながら外を走り回る職業もいくつかある。そのひとつがそば屋の出前ライダー。さすがに超大型の台風では出前を自粛しているお店も多いと思われるが、普段の台風・大雨の時はどのような状況なのであろうか?

話をしてくれたのは、都内の高級住宅街で3年以上も出前ライダーとして走り回っていた経験者。運んでいたのはもちろん「そば」だ。

「基本的に、雨が降ってきたその瞬間に、出前の電話がジャンジャン鳴り始めます。台風の時も同じですね。雨が強ければ強いほど、電話はジャンジャンと鳴りまくります。雷雨だったらなおさらです」

雨が降ったから出前を取ろうと思うのは皆同じ。出前ライダー氏いわく、雪の時も出前の注文は多いのだという。寒い時の人気メニューは、もちろん鍋焼きうどんであるという。

「雨の時に羨ましく思うのは、ワイパー付きの風防と屋根がついたピザ屋の三輪バイクですね。そば屋のカブの風防は、基本的にワイパーが付いていません。で、雨が降ると全く前が見えなくなる。よって、風防から顔を出し、顔面をビショビショに濡らしながら走らざるをえないのです」

申し訳ないとは思いつつ、ついつい注文してしまう店屋物。一方、出前ライダーたちは命を削ってメシを運んでいるのである。ちなみに超大型台風の場合は出前するのかしら?

「お店によって違うとは思いますが、あまりの大型台風だと自粛するお店の方が多いのでは? 実は出前のカブって、横風に弱いのです。猛烈な突風が横から吹くと、足元からすくわれるようにバランスを失います。コケた時も何度もあります。向かい風には強いですが、追い風で風防が吹っ飛んだ時もありました」

想像以上に壮絶である。今まで経験した一番危険な出前は?

「台風の時、走行中に目の前の電柱がグオーッと傾いた時がありました。その中を間一髪くぐりぬけて、そばを運びました。まるでインディー・ジョーンズのようでした。あとは、やっぱり風と雪が怖いですね。雪が降ると、風防が雪で真っ白になり、雨の時よりも何も見えなくなりますので」

ちなみに、食後の食器の出し方については……

「キレイに洗って、雨に濡れないようにビニール袋などに入れてくださるお客さんもいますが、実はビニール袋には入れてほしくなかったりします。食器は重ねて運ばなければならないので、ビニール袋から出さなきゃいけない。その時に雨で滑って落としたりしちゃうんです。サッと流して、そのまま外に出しておいてもらえれるだけで、十分にありがたいのです」

なかには、サッと流すどころか、汁やゴミがそのまま入った状態で外に出しておく人もいるという。その残飯の中に、タバコの吸い殻などを入れる人もいるのだとか。まったくひどい話である。

「丼物の食器を回収した時、フタを開けたら『お疲れ様』と書かれたメモが入っているときがあります。これは本当に嬉しいですね。ヨッシャ! がんばるぞ!となりますし、次回の出前時にも『絶対に伸びさせないぞ!』という気持ちで限界スピードで運ぶ気持ちになります」

実は奥深い出前の世界。なかなか届かず「今出ました!」と言われても、あまり責めないようにしてあげよう。がんばれ出前ライダー!

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