中国で大勢の人たちが集まって食べる鍋といえば、火鍋である。火鍋は2つに区切られた鍋に赤と白のスープが入っているものが代表的だ。中国ではいくつもの火鍋店があるが、『ハイディーラオ』(海底ラオ)という店が有名で、中国全土に57店舗も展開している。名誉ある「火鍋・オブ・ザ・イヤー」に何度もランクインしている人気の火鍋屋である。

人気店というだけあって、店内は清掃が行き届いており、もちろん味も良い。だが特筆すべきはそのサービスが日本以上、いやむしろ神レベルということである。

入店してまず目に飛び込んでくるのが、囲碁や将棋等様々なボードゲームとネイルサロン、山盛りのポップコーンとフルーツ。ムムッ!? ここは火鍋屋であったはず……と思っていると、なんとそこは待合室。予約なしにやってきたお客さんが楽しく待っているのだ。しかもすべて無料。そこに置いてある料理や食材はすべて食べ放題である。

店員さんはみんな若くて超ハイテンション。サービスの「サ」の字もない中国で、しかも中国資本の店で「店員の笑顔」を目にする機会は少ない。中国の店員はムスッとしているのが普通だと思っていたので、けっこうビックリしてしまった。

そうこうしているうちに日本人であることがバレてしまい、「遠いところからありがとう! 歓迎の歌をプレゼントするわ!」とフロアにいた店員全員でテレサ・テンの歌を大合唱である。歌のあと、なぜかフルーツの盛り合わせもサービスしてくれた。完全に向こうのペースだが、まったく悪い気はしない。

基本、鍋奉行は店員さん。一人で3~4テーブル担当しているようだ。わざわざ呼ぶのも悪いので自分で具材を入れようとしたら「気がつかなくてごめんなさい!」とダッシュでとんでくる。お客は楽しく食べていればそれでいいようだ。

彼らのサービスは食事の場だけではない。店内のトイレの個室には雑誌が置いてある。ゆっくりしていけということか? 女子トイレにはメイク道具一式が揃っているのだという。

また手洗い場には店員が常時待機。近づくと蛇口をあけハンドソープを出し、洗い終わるのを見計らって手拭き用のティッシュを出してくれる。しかも1人につき2枚もだ。冬場にはハンドクリームも塗ってくれる。一連の動作を自分でやろうものなら「ダメダメ、私がやるから」と笑顔で制止されてしまった。まさにすべてのお客様がVIPである。その他、ハイディーラオ伝説は以下の通り。

●ハイディーラオのサービスの数々
・雨でずぶ濡れになって入店したところ「大変! これに履き替えて!」とスリッパを出してくれた
・携帯電話をテーブルの上に置いていたら、「汚れたらいけないわ!」とジップロックに入れてくれる。しかも二重
・店員さんがタダで具材などをくれることがある。フルーツの盛り合わせ、カンフー麺(製麺パフォーマンスつきの麺)、ジュースなど
・メニューにない薬味を頼んだら「売り物ではないんだけど……」と自分で食べる用の漬け物を出してくれた
・清算後、お土産にと山盛りのポップコーンやかりんとうをくれる

「なんでそんなに優しくしてくれるの?」と聞いたら、「だってお客さんが喜んでくれると嬉しいもの!」と満面の笑顔で回答。「お客様至上主義、サービス至上主義」という企業理念がしっかりと教育されていることがわかる。しかも、店員ひとりひとりの裁量権が大きいようだ。店員さんが何をしたら客が喜ぶのか自分で考え、自分で行動していることが見てとれる。

ときに釣り銭を投げつけられ、ときに店員に罵倒され……買い物さえも騙し合いの中国も、本気を出せばこの通りだ。マジでハンパない。我々も見習うべきところもあるだろう。 

(取材・文・写真=沢井メグ
参照元:ハイディーラオ公式サイト(中国語)

▼とっても清潔な店内

▼楽しい製麺パフォーマンス「カンフー麺!」 アチョー!!

▼靴磨き、ネイルアート、インターネット……待っている間全て無料だ! 携帯電話に香りまでつけてくれるぞ

▼出してくれたスリッパ、フカフカだ

▼メニューにない薬味を頼んだら自分用の漬物を出してくれた、その心遣いが泣ける