忘れてしまいたい恥ずかしい思い出や、辛い経験はきっと誰にでもあるだろう。それを忘れることができたら、どんなに楽に生きていけることか……。不要な情報を脳内からサクっと削除できないというのは、実に歯がゆいものだ。

しかし、このたびスウェーデンの心理学者が発表した研究レポートによると、私たちは忘れてしまいたい記憶を抑圧することで、意図的に忘れることができるようになるという。

「抑圧」というのは、20世紀初頭に精神分析学者フロイトが提唱した概念で、「望まない記憶を無意識へと追いやることによって、それが忘れられるという過程」だ。以来、科学者たちの間でずっと議論の的となってきた。

このたびスウェーデン・ルンド大学のゲルト・ワルトハウザー教授は、被験者に脳波測定装置をつけた状態で抑圧の効果を実験した。実験は「think / no-thinkパラダイム」というもので、その手順はざっと次の通りだ。
 
1: 「星」と「ペンギン」などという、意味的に関連のない単語をペアでいくつか暗記する。

2:1で覚えた単語をテスト。片一方だけ示されるので、それを見て他方のペアを思い出し、答える。例えば、「星」と示されたら、「ペンギン」と答えれば正解。

3:今度は、2同じように一方の単語が表示されても、決して答えを思い出そうとしたり、他のことを考えたりしてはいけない。ここではとにかく何も考えず、頭の中を真っ白にする。ここが、この実験のポイント。

4:2と3を何度も繰り返したあとで、1で覚えた単語のペアを最終的にどのくらい覚えているかをまとめて確認。ペアの一方を提示して、他方のペアを思い出して言えるかどうかをテストする。
 
実験の結果、3で思い出さないようにしたものは、4での結果が悪いことが判明。しかも、3で提示された回数が多い単語ほど、結果が悪かった。つまり、思い出さない回数が多い記憶は、あとで思い出そうとしても思い出しにくかったのだ。

そして一連の実験の最後に、脳波記録を確認。被験者が情報を忘れた過程を見てみると、記憶の抑圧をつかさどる器官である前頭葉が活発に活動し、それが記憶の検索をつかさどる海馬の活動を停滞させていた。つまり、前頭葉が活発になればなるほど、彼らは記憶の抑圧がうまくできていたのだ。

この実験によって、抑圧の効果と、抑圧に関わる脳の部位が特定できたことで、教授は、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)で苦しむ人々の治療に役立つだろうと期待を寄せている。

もっとも、トラウマとなったできごとを忘れるのは、この実験よりもさらに複雑な方法となること、そして、意図的に記憶を抑圧することで起こりうる結果は今のところはっきりとわかっておらず、今後の研究成果をまたなくてはならないとのことも述べている。どうやら、まだまだわかっていないことは多いようだ。

しかし、「抑圧という行為は長続きしないかもしれませんが、その回数を増やせば増やすほど、ますます記憶を取り戻すことは難しくなっていきます。長期間にわたって記憶が抑圧されれば、取り戻すことは本当に難しくなるでしょう」と教授は語っている。

さて、現段階では、忘れたい記憶だけを都合良く短時間で忘れることはできないようだ。でも、時間をかければ、意図的に忘れることはできるようになるとのこと。過去のことを引きずるのは逆効果のようなので、やはりプラス思考で未来を見つめ、楽しい経験で脳を満たしてしまうこと、これが大切なのかもしれない。

参照元:dailymail, lunduniversity(英文)