2010年6月、6人の男たちがロシアにある火星往復飛行用の模擬実験施設に乗り込んだ。彼らの使命は、来るべき有人火星往復飛行で経験される閉鎖状況に、ひたすら耐えること。そんな彼らも、いまや火星の目前にまで到達したこととなっており、そして来月にはいよいよ模擬上陸することとなった。

「Mars500」と名づけられたこの実験は、モスクワ生物医学研究所、欧州宇宙機関、中国宇宙訓練センターが共同で行っている。3人のロシア人と、フランス人、中国人、イタリア系カンボジア人の計6人が、模擬宇宙船に入っている。以前紹介した「NASAが二度と地球に帰ってこれない火星植民地プロジェクトを計画中」は、火星片道旅行であり、それに比べたらずっと人道的とも言えるこのプロジェクトではないだろうか。しかし実験内容は、困難を極めるものである。火星への有人探査は、やはり並大抵のことではないようだ。

現実世界から完全に隔離された、バス程度の大きさの窓のない施設。そこに大人6人が共同で生活している。中には、実験装置と運動器具が設置されており、とても狭い空間なのだ。もちろん個室はなく、プライバシーを保てる環境とは言えない。食事はカンヅメ中心の質素な宇宙食。そしてシャワーは週に1回という。

さらに、外部との通信手段は、電子メールとビデオ通信のみ。それも、地球から遠く離れたところで交信している雰囲気をかもし出すために、通信時のタイムラグを設けているのである。無重力という状況をのぞいて、ほぼ完全な閉鎖環境を作り出しているのだ。

そんな彼らも2月12日には、模擬上陸の段階に入る。実験施設には模擬火星表面が用意されおり、ここで上陸を試みるのである。火星の滞在時間は、2日。いよいよこれで、実験は半分終了となるわけである。

しかし、実験を観察している宇宙飛行士のボリス・モロコフ氏は、「最も困難な段階は、この後の地球への帰還の道のりだ」という。「6人とも高いモチベーションをなんとか維持しているが、相当疲れている。単調な毎日で、とても大変だろう」と、モロコフ氏は語っている。

このシミュレーションが現実と大きく違う点がひとつだけある。それはリタイアしたくなったら、いつでも実験から離脱できる。だが、実際に宇宙空間に出てしまえば、すぐに地球に戻るという訳にはいかない。今のところ、幸い離脱者は出そうになく、6人とも無事に上陸段階に入れそうだ。

今回の実験「Mars500」の成否に関わらず、火星へのミッションが本番を迎えるのは、数十年先の予定である。計画実現には、莫大な資金が必要であり、何より技術的に困難だからだ。特に、コンパクトシールドという宇宙放射線から宇宙飛行士を守る装置が完成していないという。この実験がすぐに火星への有人を可能にするものではないにしても、有人飛行の難しさを理解するひとつのステップにはなるに違いない。人類は一歩一歩、着実に火星に近づいていると言えそうだ。

screenshot:dvice.com

■参考リンク
DVICE(英文)