6月15日、南アフリカ・プレトリアで行われたサッカーW杯・ブラジル対北朝鮮は、2対1でブラジルが勝利した。取材班は試合3時間前にスタジアムに到着し、その周辺を取材していて気がついたことがひとつあった。

多くのブラジル人サポーターが周囲を埋め尽くしている反面、北朝鮮サポーターを見かけることがほとんどなかったのである。ブラジル人サポーターは、敵がサッカーランキング格下の北朝鮮であろうが「全力で応援する!」という意気込みなのだろう。

それにしても、ほとんど皆無と言っていいくらい北朝鮮人サポーターがいなかった。「君は北朝鮮人かい?良かったら一緒に写真を撮らないかい?」とブラジル人サポーターに声をかけられたぐらいなので、日本人やアジア人さえ珍しかったに違いない。

スタジアム周辺の盛り上がりも最高潮だった。取材班は日本の初戦となったカメルーン戦も観戦したが、ブラジル対北朝鮮の試合の方が盛り上がっていたように思える。ちなみに会場に応援に駆け付けたサポーター数は、日本戦は約3万人、ブラジル対北朝鮮戦は5万人以上。5万人のサポーターがいても、ほとんどがブラジル人で北朝鮮人は限りなく少なかったと思われる。

そんなブラジル対北朝鮮の試合は20時半キックオフ。大方の予通り、ブラジルがボールを支配する形で試合が始まった。なかなか北朝鮮代表はボールを奪うことができず、ディフェンスラインを下げ、5バック、時には6バックという超守備的なフォーメーションでブラジルの猛攻を凌いでいた。

そんな時、取材班の隣で観戦していたブラジル人サポーターが私に「あの北朝鮮のNo.9は誰? 凄くいい動きをしているね!」と声をかけてきた。とっさに私は「あのNo.9は鄭大世(チョンテセ)という選手で、日本のクラブチームに所属しているんですよ。日本で有名な選手なんです」と返答。そのブラジル人サポーターは「サンキュー」と言って、一緒に観戦していたブラジル人にその事を伝えていた。その後も「No.9」という単語を試合中に何度も耳にした。

恐らく、北朝鮮の中でも一番目立っていたのが、チョンテセだったのだろう。北朝鮮のほとんどの選手がなんとかパスの出しどころを探し精一杯な印象だったのに対して、チョンテセはボールをもらうと積極的にゴールに向かう動きをして、選択肢を広げようとしていた。その動きは他の選手にはない余裕だ。

もし、チョンテセのように体が強くボールをキープできる選手が中盤に数人いれば、彼の動きはさらに磨きがかかっていたかもしれないし、違ったゲームが見られたかもしれない。そうポジティブに捉えることができるゲームだったのだ。

試合終了後の帰りのバスの中で日本人サポーターらは「北朝鮮、がんばってたな。力の差は数倍あったけど」や「チョンテセ、孤立してたけど、体強かったな」など、どちらかといえばブラジルよりも北朝鮮の話題で持ちきりだった。

北朝鮮の第2試合は、クリスティアーノ・ロナウド率いるポルトガルである。今回以上の試合ができれば、もしかして、番狂わせの可能性も!?色々な意味で注目のゲームが3日後に待っている。

Photo by Rocket News24 Staff / 本誌記者撮影