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『無名の偉人』とは、人ぞれぞれの経験や体験を聴くインタビューです。世の中、名のある人間ばかりが功績を残しているのではなく、誰もがそれぞれの誇りを持って生きている。その人知れず紡がれたささやかな物語を紐解く。それが、インタビュー『無名の偉人』です。

安達充氏は、たった1人のために音楽を作る『ソングレターアーティスト』です。『ソングレター』とはたった1人のためのメッセージソングです。結婚式や誕生日、退職祝い、創業記念日などに特定の誰かのために作られる音楽ギフトが『ソングレター』です。その『ソングレター』を作り歌うシンガーソングライターの安達充氏にインタビューを行いました。過去に作った楽曲は100曲以上。安達氏の『ソングレター』への想いをお伺いしました。

1、現在の活動と、その活動を始められた経緯を教えて下さい。

たった1人のためのメッセージソングを作る『ソングレターアーティスト』を仕事にしています。言葉では伝えられない感謝や感動を、音楽にのせて届ける『ソングレター』を作っています。普段はお客様からヒヤリングによって、その人の想いやお気持ちをお伺いし、それを曲にして生演奏したりCDに収録してお渡ししています。結婚式での演奏の機会も多く頂いています。また、講演会などにお呼び頂いて、その会のテーマソングを作って演奏させて頂いたり、企業の創業記念日に社歌をお作りして、演奏させて頂いたりしています。

年に数回自主企画でライブも主催しています。ライブ活動5年目に当たる9月に、『ソングレターライブ2009』と題して、ライブ活動の集大成を披露します。

このお仕事を始めたきっかけは、5年前にインターネットを通じて知り合ったある女の子との出逢いでした。その女の子は大変辛い境遇にあり、公開していたブログには、『死』をほのめかすような記述が続いていました。逢ったことのない子でしたが、その子のために何か出来ないかと思い、僕は曲を作りプレゼントしたんです。そうしたら、前向きに物事を捉えるきっかけになったようで、少しずつですが日記の内容も明るくなって行ったんです。その子との接点はほんの短い間に紡がれたものでしたが、音楽を通して想いを伝えることの可能性に、僕自身が気付いた出来事でした。

2、なぜ、この活動を続けているんですか?

日本人は想いや気持ちを言葉にするのが苦手だと思います。僕自身もそうで、なかなか思うように、気持ちを伝えることが出来ません。でも、音楽にのせて言葉にすると、不思議と伝えられるものがあります。もっと誰もが自分を伝える機会として、『ソングレター』を体感して頂きたいと思います。

それから、音楽をやって生きて行きたいと思ってる方って多いと思います。でもなかなか音楽だけで生きて行くことって難しいですよね。大勢に喜ばれる音楽(市場に受け入れられる音楽)を作って生きて行こうと思うと、競争し続けないといけないから、本当に大変です。でも、たった1人のための音楽を作る人が増えて行けば、競争しなくても音楽の才能を活かし続けることが出来ます。

お祝いの日にお花屋さんにお花を買いに行くのと同じように、お祝いの日に曲を贈る文化が拡がれば、音楽を作れる人は喜ばれながら、暮らして行くことが出来ます。そんな世の中になればいいと思い、活動を続けています。

3、曲を作る上で、心掛けていることはありますか?

曲を作る以前に、曲を作らせて頂く方とのコミュニケーションを大切にしています。相手の方の想いや気持ちを自分に落とし込めないと、曲作り出来ないんです。だから、ヒヤリングを行います。相手の方の気持ちが分かるまで、何度でもお話を聴きます。その人のその人らしさは、経験や実績に関係なく、出来事をどう感じたかに表れると思います。だから、曲作り自体よりもコミュニケーションを通じて、相手の方の想いに触れることに力を注いでいます。

僕が考える『ソングレター』は、ただの曲作りではなくて、相手の方の想いや気持ちを音楽にのせて表現する『翻訳』だと思っています。お1人おひとりの言葉を、僕の『翻訳』によって、より伝わるものにします。

4、100曲以上を手掛けているご自身にとっての、強みは何ですか?

そうですね。文章や言葉を見て、即興で曲を作れることでしょうか。どんな言葉にも抑揚ってありますよね。その言葉の抑揚を紐解いて、即興で曲作りをすることが出来ます。

これは高校時代にしていた訓練のおかげだと思います。高校生の時に曲を作っていたんですけど、当時は伝えたいことがなくて、歌詞が出て来なかったんです。それで国語の教科書を使って、曲を作る訓練をしていました。教科書のページを適当に開いて、いきなり曲にして歌うというものです。この訓練があったから、今でも即興で曲が作れるんだと思います。

あとは共感覚ですね。和音が色で見えるんです。共感覚を活かして、感覚的に綺麗な色彩になるような、曲の構成を心掛けています。

5、これからの目標について教えて下さい

近いところの目標としては、9月23日にライブ活動5周年を迎える記念の『ソングレターライブ2009』を成功させたいです。

長期の目標としては、業界を作りたいです。『ソングレター業界』を作って行きたいです。記念日に『ソングレター』を贈る文化が広まり、『ソングレターアーティスト』が活躍出来るような業界を作りたいんです。誰もがもっと自分を伝える機会をたくさん作って、誕生日や結婚式、記念日に曲を贈り合う。何もない時だって、曲を贈り合って良いと思うんです。音楽を贈る文化が広まって行ったら良いと思います。

線の細い印象を受ける安達氏。しかし、その眼差しは強く、『業界』という言葉が決して絵空事ではないと確信させられました。地道な活動ながらファンも多く、全国に彼の『ソングレター』の支持者も少なくありません。ライブ活動5周年を向かえ、益々意欲的に活動を展開する安達氏の今後が楽しみです。

■参考リンク
インタビュー『無名の偉人』安達充氏

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