8.14.12

日本でもオバマ現象は起きるのか? 8月30日に控えた第45回衆議院選挙。各党の選挙活動は佳境を向かえ、終盤戦に差し掛かろうとしている8月14日、インターネットユーザー協会主催による「インターネットと選挙・政治を考える」シンポジウムが開催された。

今回注目されたのは、堀江貴文氏らネットと選挙の両方の観点を持つパネリストの熱い議論。『「個人献金を集める仕組み」「世論を吸い上げるメディア」としてのインターネット』を主題に、時には辛らつな意見も飛び交い、ニコニコ動画での生中継も白熱した。

今回の一番の論点になったのが、「日本でも『オバマ現象』は起きるか?」ということだ。100万人のボランティアスタッフを集め、日本円で約640億円にも上る個人献金を集めた『オバマ現象』。果たしてこのようなムーブメントは日本でも起きるのか?

『オバマ現象』について、戦略コミュニケーションの専門家でフライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社代表取締役田中愼一氏(以下田中氏)は、こう述べた。

「オバマには元々不利な条件しかなかった。無名・黒人・実績なし。この状態でネットの利用は本当はダメ元だったんですよ。しかし、オバマの本当の勝因は、ネットを利用する前に、『共通認識』を作ったことです。つまり『チェンジ』です。変わろうというメッセージを共通認識として、伝えて行ったんです。そうしたら、「無名・黒人・実績なし」が強みに変わったんですね。そして、アメリカは多様性の国。多様性のある環境で共通認識を作ることは、一体感を創出するので非常に大きな意味があります」

さらに田中氏はネットと政治について、「オバマは当選後に政策提言を一般から募る『CHANGE.GOV』を作りました。1クリックで政治に参加できる仕組みを作ったんです。これもアメリカにとって非常に大きな意味を持ちます。サイレントマジョリティ(物言わぬ多数派)を取り込んだ功績が、オバマを支えていると言えます」と述べた。これに対して、2005年に衆院選に出馬した経験を持つ堀江貴文氏(以下堀江氏)は以下のように反論。

「アメリカではそれが成し得たかも知れないですけど、正直日本では難しいと思います。だってね、僕が出馬した広島6区は平均年齢60歳のエリアで、ネットユーザーなんかほとんどいない。テレビ出演で知名度はあったけど、知名度だけでもどうすることも出来ないんですよ。お金も決められただけしか使えないし。

出馬相手の地盤というのがしっかり出来ていて、入り込む余地がないんです。例えば、老人ホームとか、理事と出馬相手の方とのコネとかがあって入れないんです。老人ホームは私有地だから入れてくれないんです。ドブ板でやるしかないと思うんですよ、現状は。1人でも多くの人に接して行くしかないと思うんです。

何でネットを利用した選挙や政治の仕組みにシフト出来ないんですかね。今は携帯もあるから、携帯で本人確認をして1クリックで投票という形にすれば良いと思うんだけど」

これに慶応義塾大学教授岸博幸氏(以下岸氏)が応えた。岸氏は第一次小泉内閣発足の際、竹中平蔵経済財政政策担当大臣補佐官に就任した経験を持つ。

「日本は民主主義に見えるけど、実は『シニア民主主義・シニア資本主義』なんです。今の政治を動かしている人たちが、信用しないものを取り入れるだけの器が、まだないんです。仮にネット選挙を導入しても、恐らく何も変わらないです。若い人が怒らないとダメです。今のまま仕組みが変わっても同じことになるから、とにかく、まずは若い人に怒って欲しい。今のままではダメだって」

ここで、今回の選挙に関しての意識調査が公開された。『インターネット』と『新聞』で行われた同じ内容を比較するものだった。

◆ドワンゴによるネット入口調査(総回答数:850,442人 実施期間:8/7~10)
今回の衆院選の比例代表選挙において、どの政党に投票しますか?
自民党40% 民主党31% 選挙へ行かない13% 共産党6% その他の政党3%

◆日経新聞調査 (実施期間:8/4~6)
次期衆院選の比例代表で投票しようと思う政党は?
民主党43% 自民党26% 公明党6% 共産党4% 社民党3%

なぜ、同じ質問をして違う結果になってしまうのか。このことについて統計・リサーチの専門家である、統計数理研究所データ科学研究系教授、副所長の田村義保氏が答えた。

田村新聞の調査は、固定電話に電話をして調査するんです。電話番号の下2桁を任意で選んで、電話を掛ける訳ですけど、電話をする時間帯によって固定電話に出る人って決まって来ますよね。昼なら主婦が大半になります。そういう点である種偏った結果になっていると言えなくもないです。逆にネットの場合は、口頭ではないので、より公平な意見が聞けると思いますが、扱う媒体によってユーザー数の偏りは否めないので、公平な意見調査をする方法はないと思います。

堀江ネットユーザーが選挙に行くとは限らないですよね。だって、若い人がですよ。不在投票しようと思っても役所行かなくちゃいけないし、普段行かない学校とか公民館に行くの、面倒ですよね。今、何でも携帯で済んでしまうのに。

日本はインフラの整備は得意なんですけど、その利用についてはいつも立ち遅れています。意識の問題ですよね。

田中そこをオバマに習うなら、人を動かす『祭』にすることですよね。オバマがやったのは、『チェンジ祭』です。

共感を集めることですね。『チェンジ祭』であり『共感祭』です。

堀江確かに選挙はお祭ですよね。田舎の人は選挙好きだし、僕も一緒に選挙を闘った人たちとは、何か熱いものを分かち合った気がします。選挙ボランティアは義務化しても良いくらいですよ。そうしたら若い人がずっと選挙に関心を持ち続けられると思うんだけど。

田中今回の選挙は、ネットでも多く情報配信されていますが、関心が高いから『ネットが政治を』ネタに使っているだけです。『政治がネットを』使うようにならないといけないですね。

最後に生放送中のニコニコ動画で、ユーザーを対象に以下の内容でアンケートが行われた(アンケート時視聴者数:6,038人)。

「8月30日の衆院選は投票に行こうと思いますか?(期日前投票含む)」
1.行くつもり74.5% 2.行かないつもり16.2% 3.まだ決めてない9.2%

最終的に、1時間半の放送時間内の視聴者数は6,437人、書き込みコメント数は47,737件にも及んだ。お盆とは言え、平日の昼ながら関心の高さを十分に伺わせる。今回の選挙が果たして日本の『チェンジ祭』に成り得るのか。選挙に出馬した立候補者よりもむしろ、投票する我々の姿勢が問われている選挙ではないだろうか。